5.裏社会編[61話~85話]

5.裏社会編[61話~85話]

85話「BAR 渚」

夕方前に街を出た。リビングのテーブルに置きっぱなしにしていた「BAR渚」の名刺が目に留まった。名刺を手に取り、ソファーに腰を下ろした。しばらく、その名刺を眺めていた。海かぁ。なにか急に海が見たくなった。「早苗、今から海に行こうか!」キッチン...
5.裏社会編[61話~85話]

84話「何も知らない朝」

マンションの駐車場に車を停め、エンジンを切る。夜通し降っていた雨の匂いが、まだわずかに立ちこめていた。ドアを開けると、早苗が玄関に駆け寄り少し眉を寄せて言った。「遅かったね、心配したんだよ」普段より少しだけ声が強い。「ごめん、ちょっと事務所...
5.裏社会編[61話~85話]

83話「朝になるまで」

気がつくと、部屋の中はうっすらと明るくなっていた。カーテンの隙間から差し込む朝方の光が、静かな寝室を淡く照らしている。恵美は私の腕を枕にするようにして、静かに眠っていた。長い髪が頬にかかり、昔付き合っていた頃と変わらない寝顔だった。私はしば...
5.裏社会編[61話~85話]

82話「名前で呼んでいた頃」

ある雨の夜、私は恵美さんのマンションに向かった。月に一度の売上報告や、店の近況を話すためだ。インターホン越しに恵美さんの声が響く。「そのまま上がってきて。鍵は開いてるから」静かな室内に入ると、恵美さんはワイングラスを片手に、リビングのソファ...
5.裏社会編[61話~85話]

81話「兄貴が行ってるから」

ファミレスの駐車場で車のエンジンをかけた。フーッと大きく息を吐く。店の中では平然と話していたが、正直なところ神経はかなり使った。相手の出方ひとつで、どう転んでもおかしくない空気だったからだ。ハンドルに手を置いたまま、しばらく前を見つめる。相...
tomをフォローする