123話「この形なら」

目が覚めると、部屋の明かりは少し落ちていた。

キッチンの方から、水の音と食器の触れ合う小さな音が聞こえる。

どれくらい寝ていたのか分からないが、体は少し軽かった。

携帯を見ると、弘から「今から行きます」とメッセージが入っていた。

最近は電話じゃなくてメールが来ることが増えた。

私は体を起こし、軽く伸びをした。

「美緒、弘がもうすぐ着くみたいだ」

キッチンに向かって声をかけた。

「分かりました。それじゃコーヒー淹れますね」

美緒はキッチンから顔を出して言った。

しばらくするとインターホンが鳴り、玄関で美緒と弘の笑い声が聞こえてきた。

弘がキョロキョロしながらリビングに入ってくる。

「兄貴、お疲れっす!俺、女の子の部屋に入るのとか久しぶりっすよ!なんかメッチャいい匂いするっすね」

部屋を見回しながら、大きく息を吸い込む。

「お前なぁ。まぁ、とにかく座れよ」

私は呆れたように言った。

「弘さんって、本当に面白いですね」

美緒はコーヒーをテーブルに置きながらクスッと笑う。

私はコーヒーを一口飲んで言った。

「それじゃ始めよう。まずは料金設定からだ」

「料金は今のままじゃダメなんすかね」

弘がすぐに口を挟む。

「美緒はどう思う?」

私は美緒に目を向けた。

「はい。今の金額から三千円は下げたほうがいいと思います」

一呼吸置いて続ける。

「今は店が少ないから、お客さんはあまり選べませんよね。

でも、これから増えたら…選ばれる側になります」

弘は腕を組んだまま口を挟んだ。

「三千円も下げたら売上かなり落ちるっすよ。女の子と半分にしても千五百円っすから」

「女の子の給料は減らせない。下げるなら、その分は全部店の負担だ」

私はそう言った。

美緒が静かに続ける。

「はい。ただ下げればいいって訳じゃないんです」

一度弘に目を向けてから言葉を選ぶ。

「安さだけで勝負すると、結局は質が落ちてしまいます。

お客さんの質も、女の子の質も」

弘が小さく頷く。

「女の子のモチベーションも大事です。

これは売上にも求人にも直結します」

少し間を置いてから、続けた。

「指名料は別でもらう形にします。

料金とは別に払ってでも選んでもらえたっていう実感が、モチベーションにつながると思うんです」

「それがサービスの質にもつながって、結果的にお店の評価も上がると思います」

弘は納得したように顔を上げた。

「なるほどっすね…仕事の数増やせばいいって話じゃないんすね」

「そうだな。安売りに寄せすぎたら、どっちも崩れる」

私はそう言ってから、美緒に視線を戻した。

「いいと思う。その形でいこう」

そう言うと、二人が小さく頷いた。

「やっぱ美緒ちゃんは大学出てるから違うなぁ。俺、普通に勉強になりましたよ。

俺と兄貴は中卒っすもんね」

弘が感心したように言う。

「バーカ、お前と俺は同じ中卒でも違うんだよ。一緒にするな」

私がそう言うと、三人で笑った。

「弘さん、お腹すきましたよね?簡単なものですけど」

そう言って美緒はキッチンへ戻る。

しばらくして、大きな皿をテーブルに置いた。

おにぎりに唐揚げ、卵焼き、ウインナーが並んでいる。

「おー!運動会ねお弁当みたいっすね!いただきまーす」

弘は嬉しそうにおにぎりにかぶりついた。

私もそれにつられて手を伸ばす。

こうしてこの夜、花水木の料金やシステムはほぼ固まった。

この形なら、いける気がした。

ふと顔を上げると、美緒が嬉しそうにこちらを見ていた。

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