177話「変わらない場所」

目を覚ますと、美緒が隣で眠っていた。

カーテンの隙間から差し込む朝の光が、静かに部屋を照らしている。

私はそっと美緒の髪に触れた。

その気配に気付いたのか、美緒がゆっくりと目を開く。

「……おはよう」

「おはよう」

美緒は小さく微笑むと、私の胸元へ顔を寄せた。

「今日は時のかけらだよね」

「ああ。高梨社長と約束してる」

「忙しくなりそうだね」

「そうだな」

そう答えながらも、不思議と気持ちは落ち着いていた。

しばらく二人で静かな時間を過ごしてから、美緒のマンションを後にした。

昼過ぎ。

私は時のかけらへ向かった。

店へ入ると、高梨社長が笑顔で迎えてくれる。

「お疲れ様です」

「お疲れさまです。ちょうど準備できたところです」

テーブルの上には数多くのアクセサリーが並べられていた。

私は一つひとつ手に取りながら見ていく。

フィリピン人向けの商品。

そして早苗が話していた日本人向けの商品。

どちらもきちんと揃えられていた。

「すごいですね」

思わずそう口にする。

高梨社長は少し笑った。

「フィリピン人向けは、以前と同じ系統の品を揃えました。日本人の女の子が好みそうな品も揃えてきましたが、どうでしょうか?」

私は改めて商品を見渡した。

日本人の女の子が好みそうなデザイン。

派手過ぎず、普段でも使いやすい。

早苗が言っていたイメージに近かった。

「これならいけそうですね」

「それは良かったです」

私は頷きながら商品を仕入れていった。

支払いや書類の手続きを終え、そのまま茉莉花へ向かう。

茉莉花に帰るとリビングは静まり返っていた。

「早苗」

と呼ぶが返事はなく、私の声だけが響く。

私はそのまま二階の部屋へ行き、アクセサリーの入ったバッグをテーブルに置いた。

ソファーに腰を下ろし、携帯を取り出して早苗に連絡する。

すると、少し出ているだけですぐに戻るとのことだった。

私はコートを脱ぎ、寝慣れたベッドへ横になる。

懐かしいような感触。

そして、ほのかに残る早苗の匂い。

安心するようなその匂いに包まれているうちに、いつの間にか眠りに落ちていた。

どれくらい時間が経ったのか分からない。

優しく頬を撫でる手の感触で目を覚ます。

目を開けると、早苗の顔が目の前にあった。

「よく寝てたね」

「ああ、寝てしまってた」

早苗は小さく微笑みながら、私の隣へ腰を下ろした。

「あなたと、こうしてるの久しぶり」

「そうだな」

「最近ずっと忙しかったでしょ」

少しだけ寂しそうな笑顔だった。

私は何も言わず、早苗の髪をそっと撫でる。

すると早苗は安心したように目を細めた。

「だから今日は少しだけ独り占めしたい」

そう言って私の胸元へ額を預ける。

その仕草が愛おしくて、私は自然と早苗を抱き寄せた。

しばらくそのまま寄り添っていたあと、早苗が顔を上げる。

潤んだ瞳が私を見つめていた。

早苗は私の顔を両手で包み込み、そっと唇を重ねる。

柔らかな感触。

久しぶりに触れ合う温もりだった。

唇が離れると、早苗は少し照れたように笑った。

私はその背中へ腕を回し、もう一度引き寄せる。

そして再び唇を重ねた。

今度は先ほどよりも長く。

早苗は小さく身体を震わせ、私の背中へ回した指に力を込める。

言葉はいらなかった。

互いの温もりを確かめるように、ただ静かに抱き合う。

部屋には二人の静かな時間だけが流れていた。

コメント