茉莉花を出て車に乗り込む。
エンジンをかける前に携帯を見ると、美緒からメールが届いていた。
『取置きしていたアクセサリーを買いたいって連絡が来たよ』
内容を読む。
MAHALのタレントからだった。
お客さんからお金をもらったらしく、以前取置きしていたアクセサリーを購入したいという。
私はすぐに返信を送り、美緒のマンションへ向かった。
部屋に着くと、美緒は出かける準備を終えていた。
「連絡来たよ」
「良かったな」
そう言いながら美緒が微笑む。
私はリトにも連絡を入れた。
販売のときは必ず同行してもらっている。
しばらくしてリトと合流し、三人でタレントの部屋に向かった。
部屋に入ると、タレントは嬉しそうな表情を見せた。
「オー!美緒、ナオト待ってたヨ!」
そう言いながら現金を差し出す。
美緒は取置きしていたアクセサリーを渡した。
これで一つ取引が終わる。
だが、その日の仕事はそれだけでは終わらなかった。
部屋の中には見慣れない女の子たちがいた。
「この子たちはMAHALグループの他の店のタレントです」
リトが私と美緒に紹介する。
系列店のタレントたちらしい。
遊びに来ていたようだった。
「私たちもアクセサリー見てもいいですか?」
一人がそう言った。
どうやら口コミで私たちのことを聞いていたらしい。
美緒は持ってきていたケースをテーブルに広げながら英語で受け答えしていた。
並べられたアクセサリーに、女の子たちの目が一斉に向く。
「かわいいネ!」
「これ欲しい」
「こっちもいいネ!」
部屋の空気が一気に変わった。
次々と手に取られていくアクセサリー。
気がつけば、その場は小さな展示会のようになっていた。
「ローンで大丈夫?」
その質問に美緒が説明する。
すると何人かが購入を決めた。
予想していなかった新しい販売だった。
リトも横で手続きを進めていく。
気がつけば、取置きの商品の販売だけで終わるはずだった仕事は思わぬ広がりを見せていた。
「他のタレントも見たいって言ってるヨ」
帰り際、一人のタレントが言った。
「今度、私たちの部屋にも来てほしいヨ!」
別の女の子も続く。
美緒が笑顔で答えた。
「もちろん」
私はそのやり取りを見ながら頷いた。
少しずつだが、口コミで輪が広がり始めている。
そんな実感があった。
マンションを出ると、夕方の風が冷たかった。
リトと別れたあと、私は美緒と二人でマンションへ戻る。
エレベーターの中で顔を見合わせる。
今日の成果を思い出したのか、美緒が小さく笑った。
「口コミで広がっているみたいだね」
「そうだな」
自然と私も笑う。
部屋の扉が閉まる。
今日の仕事を思い返す。
取置きの商品を届けるだけのはずだった。
それが思わぬ出会いを生み、新しい繋がりへと変わっていった。
「少しずつ広がってきたね」
美緒が静かに言う。
「ああ」
私は頷いた。
こういう瞬間が、なぜか一番嬉しかった。

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