インターホンが鳴った。
「来たかな」
早苗が立ち上がり、玄関へ向かう。
少しして、ドアの開く音と、落ち着いた声が聞こえた。
「はじめまして、篠原です。よろしくお願いします」
想像していたよりも、やわらかい声だった。
リビングに入ってきたその人は、どこか茉莉花の店の雰囲気に合っている気がした。
「こちら、篠原綾さん」
早苗に紹介され、軽く頭を下げる。
「はじめまして。急にお邪魔してすみません」
言葉は丁寧だけど、変に固くない。
その自然さに、少しだけ意外さを感じた。
「いえ、こちらこそ。村上直人です。よろしくお願いします」
そう返しながら、私はなんとなく思った。
——この人は、たぶん大丈夫だ。
根拠はない。
けれど、そう思わせるだけの落ち着きがあった。
綾さんはリビングをゆっくりと見渡して言った。
「ここが女の子の待機場所になるんですね」
「うん、まだ途中なんですよね。こことあそこに大きな観葉植物を置いて、ここには熱帯魚の水槽を置こうと思ってるんです」
早苗は指し示しながら説明していた。
綾さんは頷きながら聞いている。
「すごく良い事務所ですね。広くて圧迫感もないし、二つに分けているのがいいですね。こっちはテレビを観たりお喋りしたり。片方は静かに本を読んだりして、リラックスできるし」
綾さんは少し微笑んだ。
「他の店の事務所ってどんな感じなんですか?」
早苗が聞いた。
「私が知っている限りでは、こんなに充実した事務所は見たことないですね」
綾さんは、そのまま早苗に目を向けて続けた。
「一番は、女性スタッフでお店を回していくことがいいと思うんです。男性スタッフだと言いにくいことや、デリケートな部分は分からないことも多いですから」
早苗と綾さんはソファーに座り、話し始めた。
私は出る幕じゃないと思い、そっと二階に上がった。
ベッドに横になりながら、さっきの会話を思い返す。
この仕事は、表に立つのは女の子たちだ。
裏で支える側のあり方は、もっと静かでいい。
男は必要だが、前に出るのではなく、黒子に徹する。
そんなことを考えていると、一階から里奈ちゃんの元気な声が聞こえてきた。
「早苗ー!お肉の特売やってたから、綾さんの歓迎会も兼ねて鉄板焼きパーティーしようよ!」
思わず小さく笑った。
早苗、里奈ちゃん、綾さん。
この三人で、茉莉花はきっと上手くいく。

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