130話「揃った気配」

インターホンが鳴った。

「来たかな」

早苗が立ち上がり、玄関へ向かう。

少しして、ドアの開く音と、落ち着いた声が聞こえた。

「はじめまして、篠原です。よろしくお願いします」

想像していたよりも、やわらかい声だった。

リビングに入ってきたその人は、どこか茉莉花の店の雰囲気に合っている気がした。

「こちら、篠原綾さん」

早苗に紹介され、軽く頭を下げる。

「はじめまして。急にお邪魔してすみません」

言葉は丁寧だけど、変に固くない。

その自然さに、少しだけ意外さを感じた。

「いえ、こちらこそ。村上直人です。よろしくお願いします」

そう返しながら、私はなんとなく思った。

——この人は、たぶん大丈夫だ。

根拠はない。

けれど、そう思わせるだけの落ち着きがあった。

綾さんはリビングをゆっくりと見渡して言った。

「ここが女の子の待機場所になるんですね」

「うん、まだ途中なんですよね。こことあそこに大きな観葉植物を置いて、ここには熱帯魚の水槽を置こうと思ってるんです」

早苗は指し示しながら説明していた。

綾さんは頷きながら聞いている。

「すごく良い事務所ですね。広くて圧迫感もないし、二つに分けているのがいいですね。こっちはテレビを観たりお喋りしたり。片方は静かに本を読んだりして、リラックスできるし」

綾さんは少し微笑んだ。

「他の店の事務所ってどんな感じなんですか?」

早苗が聞いた。

「私が知っている限りでは、こんなに充実した事務所は見たことないですね」

綾さんは、そのまま早苗に目を向けて続けた。

「一番は、女性スタッフでお店を回していくことがいいと思うんです。男性スタッフだと言いにくいことや、デリケートな部分は分からないことも多いですから」

早苗と綾さんはソファーに座り、話し始めた。

私は出る幕じゃないと思い、そっと二階に上がった。

ベッドに横になりながら、さっきの会話を思い返す。

この仕事は、表に立つのは女の子たちだ。

裏で支える側のあり方は、もっと静かでいい。

男は必要だが、前に出るのではなく、黒子に徹する。

そんなことを考えていると、一階から里奈ちゃんの元気な声が聞こえてきた。

「早苗ー!お肉の特売やってたから、綾さんの歓迎会も兼ねて鉄板焼きパーティーしようよ!」

思わず小さく笑った。

早苗、里奈ちゃん、綾さん。

この三人で、茉莉花はきっと上手くいく。

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