指定されたファミレスに着くと、外の街灯に照らされた看板がぼんやり光っていた。
店内に入ると、すぐにその男の姿が目に入った。
間違いなくこの男だろうと思い、そのテーブルに向かう。
「ラブステーションの方ですか?」
店名で聞く。
「そうですよ。月下美人の?」
探るような目で、私をジッと見ている。
「はい、村上です」
そう言って席に着いた。
その男は上下白のジャージ姿。
年齢は四十代半ばくらい。
髪は短く刈り込み、金のネックレスに指輪という出で立ちで、足を組んで座っていた。
そしてその隣には、派手な服装の女性が一人。
私を見る目には、敵意と横柄さが混ざっていた。
私はコーヒーを注文した。
男も女性も、店員に対して平然と横柄な態度をとっている。
ただならぬ空気が、店内のざわめきを少しだけ凍らせるようだった。
男は低い声で言った。
「村上さんでしたっけ。どこか組織に入ってるんですか?」
顎の無精髭を触りながら聞いてくる。
見ると左手の小指が欠損していて、それをアピールするかのようにテーブルに手を置いた。
「いえ、属してませんが」
男の目を見て答えた。
「そうですか。それじゃ月下美人の経営者ってことですね?」
視線を逸らさず聞いてくる。
「経営者ではないですが、私が一任されています」
私も視線を外さず答えた。
「それじゃ別に経営者がおられると?」
男は左手の指でテーブルをトントンと叩きながら言う。
「はい。ですが一任されているので、話は私が聞きますし、一任されている以上、店でのトラブルなどの責任は私にありますから」
そう言ってコーヒーに口をつけた。
男は足を組み直し、睨むような目で言った。
「率直に言いますが、月下美人で働いている◯◯のことです。
私は、うちを辞めたと思ってないんですよ。
だから、うちを辞めてないのに、よそで働くっておかしいでしょ。
そもそも、うちは掛け持ち禁止してるしね」
私はコーヒーを飲み、一呼吸置いた。
「でも昨夜電話で話した時、以前在籍していたとおっしゃってましたよね?
ということは、今現在は在籍してないってことですよね。
女の子に確認したら、店には辞めると言ってあると聞きましたが」
すると、今まで黙って聞いていた女性がヒステリック気味に口を挟んだ。
「そりゃ確かに辞めるとは聞いたけど、私は納得してないし、許可もしてない!」
「お前は黙っとけ、口を挟むな!」
男は女性を怒鳴りつけた。
女性は怒鳴られてそっぽを向き、男は苛立っているのか舌打ちをし、貧乏ゆすりをしていた。
「すいません。こっちが初めに在籍があるかないか確認しておけばよかったですね。
仕事を始めて間もないし、この業界のルールもよく理解していなかったので。
今度から、こんなことがないように確認し合うようにしませんか?」
私は少し頭を下げ、相手を立てるように言った。
しばらく沈黙が続いたあと、男が口を開いた。
「まぁ、村上さんがそんなに言うなら、私はそれでいいですよ。
今後は良い付き合いしていきましょう」
男の目から、威圧感や敵意が消えていた。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
そう言って頭を下げた。
ファミレスを出て車に乗り、フーッと大きく息を吐く。
相撲に負けて勝負に勝つ、という言葉が頭に浮かんだ。
今回は上手くいったが、この先何があるか分からない。
この世界は、言葉のやり取りひとつで大きく状況が変わる。
気を引き締めないといけない。

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