2026-04

5.裏社会編[61話~85話]

73話「滝を登る鯉」

朝の光が部屋を優しく包む。窓の外には、まだ柔らかな街の空気が漂っていた。テーブルの上には、由美さんの名刺が置かれている。「BAR 渚…か」駅での印象が自然に思い出され、心の片隅で、近いうちに行くことになるだろうと思った。今日は、刺青の完成を...
5.裏社会編[61話~85話]

72話「山の刑務所」

陣さんのいる刑務所は山の上にある。最寄り駅からでも、車で山道をしばらく上らないといけない場所だ。道は細く、カーブも多い。ほとんど刑務所に行く人しか通らないような道で、両側には木がうっそうと茂っている。面会の日、私は駅で水田由美さんと待ち合わ...
5.裏社会編[61話~85話]

71話「呼ばれた名前」

翌日の午前、水田由美に電話をかけた。数回の呼び出し音のあと、すぐに繋がる。「はい、水田です」落ち着いた声だった。抑揚は少なく、余計な感情もない。面会に乗せて行く日程の話を切り出すと、彼女は社交辞令なのか「ご迷惑になりますので」と一度は断った...
5.裏社会編[61話~85話]

70話「他愛ない時間」

「兄貴、姐さんご馳走様でした!」弘は車が動き出すまで、笑顔で手を振っていた。車の中は、さっきまでの焼肉の喧騒が嘘みたいに静かだった。窓の外を流れる街灯の光が、ぼんやりと揺れている。「弘君って、ほんと面白いよね」早苗がくすっと笑う。「あいつは...
5.裏社会編[61話~85話]

69話「報せ」

「弘君、遅いね」「何やってんだ、あいつは」今日は早苗と弘の顔合わせも兼ねての食事会の日だ。弘に何が食べたいと聞いたら、久しぶりに肉食べたいと言うのでちょっと奮発して焼肉にした。店内は、店員の威勢のいい声や客の笑い声で賑わっている。早苗が「あ...