弘と別れた私は茉莉花へ向かった。
茉莉花に着くと扉は鍵がかかっていた。
誰もいないとか珍しいなと思いながら、鍵を開け二階へ上がる。
私は携帯電話を取り出して早苗に電話をかける。
「もしもし?」
「どこにいるんだ?」
「ちょっと買い物。もうすぐ戻るよ」
「そうか」
「コーヒー買って帰るから待ってて」
「分かった」
電話を切る。
私はソファーにもたれながら天井を見上げた。
自然と頭に浮かぶのは優良店会のことだった。
黒岩たちは花水木が私の店ではないことを知っている。
背後に恵美がいることも知っているはずだ。
だから花水木に手を出してくることはないだろう。
だが、茉莉花は違う。
ここは私の店だ。
もし何か仕掛けてくるなら、茉莉花の方だろう。
私は小さく息をついた。
恵美に話を通しておけば、おそらく問題はない。
あの人なら何とかしてしまうだろう。
だが――。
それでいいのだろうか。
私は窓の外へ視線を向けた。
自分の店は自分で守る。
それが当たり前のような気がしていた。
恵美を嫌っている訳ではない。
むしろ感謝している。
それでも、何でも頼ればいいというものでもない気がした。
だが相手は黒岩だ。
黒岩の後ろには、柴田組の宮本がいるのは分かっている。
私一人の問題では済まなくなる。
早苗。
里奈ちゃん。
綾さん。
そして茉莉花で働く女の子たち。
もし危険が及ぶようなことがあれば――。
そこまで考えた時、階段を上がってくる足音が聞こえた。
「ただいまー」
明るい声と共に早苗が姿を見せる。
片手にはケーキの箱。
もう片方には紙袋を提げていた。
「おかえり」
「美味しいコーヒーも買ってきたよ」
そう言いながら早苗は嬉しそうにテーブルへ並べていく。
私はその様子を見て小さく笑った。
早苗は私の隣に腰を下ろす。
「何かあった?」
「いや、別に」
「絶対何か考えてた顔だよ」
早苗はそう言って笑う。
私は誤魔化すようにコーヒーを一口飲んだ。
温かい香りが鼻を抜ける。
早苗は気にした様子もなく、アップルパイを切り分けていた。
その横顔を見ていると、自然とそんな考えが浮かんだ。
この店を。
この場所を。
そして大切な人たちを守る。
それも私の役目なのだろう。
その時だった。
携帯電話が震える。
画面を見る。
表示されていた名前を見ると、リトだった。

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