213話「守るべき場所」

弘と別れた私は茉莉花へ向かった。

茉莉花に着くと扉は鍵がかかっていた。

誰もいないとか珍しいなと思いながら、鍵を開け二階へ上がる。

私は携帯電話を取り出して早苗に電話をかける。

「もしもし?」

「どこにいるんだ?」

「ちょっと買い物。もうすぐ戻るよ」

「そうか」

「コーヒー買って帰るから待ってて」

「分かった」

電話を切る。

私はソファーにもたれながら天井を見上げた。

自然と頭に浮かぶのは優良店会のことだった。

黒岩たちは花水木が私の店ではないことを知っている。

背後に恵美がいることも知っているはずだ。

だから花水木に手を出してくることはないだろう。

だが、茉莉花は違う。

ここは私の店だ。

もし何か仕掛けてくるなら、茉莉花の方だろう。

私は小さく息をついた。

恵美に話を通しておけば、おそらく問題はない。

あの人なら何とかしてしまうだろう。

だが――。

それでいいのだろうか。

私は窓の外へ視線を向けた。

自分の店は自分で守る。

それが当たり前のような気がしていた。

恵美を嫌っている訳ではない。

むしろ感謝している。

それでも、何でも頼ればいいというものでもない気がした。

だが相手は黒岩だ。

黒岩の後ろには、柴田組の宮本がいるのは分かっている。

私一人の問題では済まなくなる。

早苗。

里奈ちゃん。

綾さん。

そして茉莉花で働く女の子たち。

もし危険が及ぶようなことがあれば――。

そこまで考えた時、階段を上がってくる足音が聞こえた。

「ただいまー」

明るい声と共に早苗が姿を見せる。

片手にはケーキの箱。

もう片方には紙袋を提げていた。

「おかえり」

「美味しいコーヒーも買ってきたよ」

そう言いながら早苗は嬉しそうにテーブルへ並べていく。

私はその様子を見て小さく笑った。

早苗は私の隣に腰を下ろす。

「何かあった?」

「いや、別に」

「絶対何か考えてた顔だよ」

早苗はそう言って笑う。

私は誤魔化すようにコーヒーを一口飲んだ。

温かい香りが鼻を抜ける。

早苗は気にした様子もなく、アップルパイを切り分けていた。

その横顔を見ていると、自然とそんな考えが浮かんだ。

この店を。

この場所を。

そして大切な人たちを守る。

それも私の役目なのだろう。

その時だった。

携帯電話が震える。

画面を見る。

表示されていた名前を見ると、リトだった。

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