212話「ただの噂ではない」

数日後、私は顔を優しく撫でられて目を覚ました。

「おはよう」

隣を見ると、美緒がベッドの座り、柔らかな笑みを浮かべている。

「…おはよう、もう起きてたのか」

私が体を起こすと、美緒はいつものように指で優しく髪を整えながら言う。

「うん、コーヒー淹れてるよ」

「ああ、ありがとう」

ベッドを出てソファーに腰を下ろすと、美緒も隣に座りバックから手帳を取り出して開いた。

私はカップを手に取りながら聞く。

「今日は予定があるのか?」

「うん、花水木に写真のデータを取りに行ってその後、藤本さんのところに集金に行ってくる」

美緒は手帳を見ながらこたえる。

「あっ、そうだったな今日はエンジェルタッチの集金日か」

私はコーヒーを一口飲み、テーブルの上に置いてあった携帯電話へ手を伸ばした。

画面を見ると弘からメールが届いていた。

『優良店会のことで分かったことがあります』

私はメールを読み終えるとすぐに返信した。

『三十分後にいつものファミレスに来れるか?』

『はい。大丈夫です』返信はすぐに来た。

「弘さん?」

「うん、ちょっと弘と会ってくる」

「分かった、私も用事済んだら連絡するね」

「気を付けて行ってこいよ」

私は美緒に見送られ、ファミレスに向かった。

ファミレスに着くと弘は入口で待っていた。

向かい合って座る。

注文したコーヒーが運ばれてくる。

私は一口飲んでから口を開いた。

「それで、何か分かったのか」

弘は周囲を一度見回してから頷いた。

「はい」

そして少し声を落とす。

「優良店会の件なんすけどね」

私は黙って続きを促した。

「会費が高いから辞めたいって黒岩に話した店があったらしいんすよ」

私は眉をひそめた。

「それで」

「退会させてもらえなかったみたいっす」

私は弘を見る。

弘は真剣な表情だった。

「その店の人が言うには、黒岩と組員風の男が店に来て圧をかけてきたらしいんすよ」

私は腕を組んだ。

「本当の話なのか」

「俺も見た訳じゃないっすから」

弘は正直に答える。

「でも、その店の人は本気で怯えてたらしいっす」

私は黙ってコーヒーを口へ運んだ。

もしそれが事実なら穏やかな話ではない。

弘は続ける。

「それだけじゃないんすよ」

私は視線を上げた。

「まだあるのか」

「あります」

弘は頷いた。

「別の店なんすけどね」

そして少し間を置く。

「優良店会として雑誌に広告を載せるからって、高額な広告料を請求されたらしいっす」

私は眉をひそめた。

「強制だったのか」

「半分そんな感じだったみたいっす」

弘は苦笑する。

「断りづらい空気を作られてたって話っすね」

私は窓の外へ目を向けた。

数日前に聞いた話よりも、さらに厄介な内容だった。

単なる噂話では済まないのかもしれない。

優良店会。

退会を認めない。

組員風の男を連れて圧力をかける。

高額な広告料を請求する。

もし弘の聞いた話が事実なら、それは単なる業界団体ではない。

私は冷めかけたコーヒーを一口飲んだ。

だが、この時の私はまだ知らなかった。

優良店会という存在が、思っていた以上に厄介なものだということを。

弘の話を聞けば聞くほど、関わりたくない相手だと思った。

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