214話「思わぬ話」

携帯電話が震える。

表示されていた名前を見ると、リトだった。

私は通話ボタンを押した。

「もしもし?」

「あっ、ナオト? 今大丈夫?」

いつもの陽気な声だった。

「大丈夫だけど」

「良かった。ちょっと話があるんだよネ」

私はソファーにもたれたまま答える。

「どうしたの?」

「この前、空港で会ったミッシェル覚えてる?」

「ああ、覚えてるよ」

クラブ黒木のタレントだ。

「さっき、ミッシェルから連絡があったんだヨ」

「へえ」

「ナオトのアクセサリー販売の話を店のママにしたらしいんダ」

私は少し驚いた。

「ママに?」

「うん。そしたら興味を持ったみたいでサ」

リトは楽しそうに続ける。

「一度会ってみたいって言ってるらしいヨ」

「私に?」

「そう」

私は思わず眉を上げた。

そしてコーヒーに手を伸ばす。

「何でまた」

「そこまでは分からないヨ」

リトは笑う。

「ただ、ミッシェルが結構気に入ってたみたいだからネ」

私は苦笑した。

空港では少し話した程度だ。

気に入られるようなことをした覚えもない。

「それでさ」

リトが少し声の調子を変える。

「タレントのアパートでアクセサリー販売できないかって話もしたらしいヨ」

私は思わず眉をひそめた。

「いきなりそれは無理だろ」

「だよネ」

リトもすぐに同意した。

タレントが住むアパートやマンションは、どこの店も部外者の出入りに厳しい。

MAHALグループで販売できたのも、リトがスタッフとして関わっていたからだ。

全く事情が違う。

「私もそう思ったんだよネ」

リトは続ける。

「だからまずは会ってみたいんじゃないかナ」

「なるほどな」

それなら話は分かる。

いきなり部外者を住まいへ入れる訳にはいかないだろう。

「どうする?」

私は少し考えた。

断る理由はない。

むしろ興味があった。

「一度話を聞いてみるか」

「だよネ!」

リトの声が弾む。

「じゃあ今度クラブ黒木に行こう」

「分かった」

「日にちは後で連絡するヨ」

「うん、分かった」

電話が切り、携帯電話をテーブルへ置いた。

「何の話?」

アップルパイを食べながら早苗が聞いた。

「クラブ黒木って店のママに会うことになりそうだ」

「クラブ黒木?」

早苗が少し目を丸くする。

「知ってるのか?」

「知ってるよ」

早苗は頷いた。

「私、茉莉花の前はラウンジで働いてたんだから」

それもそうか。

「有名なのか?」

「有名だよ」

早苗は迷いなく答えた。

「あそこのママ、やり手って評判だもん」

私はコーヒーを一口飲む。

やり手のママか。

「じゃあ緊張するな」

私がそう言うと、

「大丈夫だって」

早苗は笑った。

「向こうから会いたいって言ってるんだから」

確かにそうだ。

私は小さく笑う。

空港でリトとミッシェルが再会したことから、思わぬ方向に話が進んでいく。

だが――。

クラブ黒木のママ……どんな人なのか。

私は残っていたアップルパイを口に運びながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。

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