215話「開かれた扉」

翌日の午後。

私は茉莉花の二階で早苗と他愛ない話をしながら、コーヒーを飲んでいた。

テーブルの上にある携帯電話が震える。

リトだった。

「もしもし?」

「あっ、ナオト?」

いつもの陽気な声が聞こえる。

「今日仕事休みなんだヨ」

「そうなんだ」

「せっかくだし、クラブ黒木に行ってみない?」

昨日の電話の話だ。

「ミッシェルには連絡した?」

「ウン! ミッシェルに聞いたら大丈夫だってサ」

リトは笑う。

「ママもいるらしいヨ」

「分かった、それじゃ行こうか。後で連絡するよ」

「じゃあ、連絡待ってるネ」

電話を切り、美緒へメッセージを送る。

夕方からリトと会い、クラブ黒木へ行ってくること。

しばらくすると返信が来た。

『私は花水木行ったり、パソコン作業があるから大丈夫だよ』

私は携帯をポケットにしまい、早苗にリトとクラブ黒木へ行ってくると伝え茉莉花を出た。

夕方過ぎ、リトに今から迎えに行くと連絡を入れ、私はマンションへ車を走らせた。

マンションに着くと、リトはいつものようにエントランスで待っていた。

助手席に乗り込んだリトが言う。

「私もクラブ黒木行くの初めてなんだヨ」

「そうなのか?」

「ウン」

リトは頷く。

「でも有名だヨ」

私はハンドルを切り車を走らせる。

「タレントのレベルはこの街で一番だと思うヨ」

「へえ」

「サラリーも一番高いんじゃないかナ」

リトは続ける。

「人数も多いしネ」

「レベルが高い店なんだな」

「そうだヨ」

リトは窓の外を見ながら笑った。

「フィリピンクラブで知らない人はいないと思うネ」

しばらくして目的のビルへ到着した。

店は五階にあった。

エレベーターを降りると目の前には、

【クラブ黒木】

と書かれた看板があった。

「ここか」

「そうだネ」

リトと顔を見合わせる。

そして扉を開けた。

店内へ入った瞬間、私は少し驚いた。

MAHALとは雰囲気が違う。

どちらかと言えば高級クラブに近い。

照明は落ち着いていて、内装にも品がある。

騒がしい感じはない。

タレントたちも洗練された印象だった。

フィリピンクラブ特有の賑やかさよりも、大人の落ち着きを感じる。

「すごいな」

私が呟くと、

「だよネ」

リトも店内を見回していた。

「あっ、ナオト!」

声が聞こえた。

見るとミッシェルだった。

笑顔でこちらへ駆け寄ってくる。

「来てくれたんダ!」

「久しぶり」

「こっち来て」

ミッシェルは嬉しそうに私たちをボックス席へ案内した。

軽く近況を話していると、一人の女性が近付いてきた。

「初めまして」

落ち着いた声だった。

黒のパンツスーツ。

派手さはない。

だが自然と目を引く。

年齢は恵美と同じくらいだろうか。

柔らかな笑顔を浮かべている。

しかしその目には鋭さがあった。

仕事のできる人の目だ。

「クラブ黒木の黒木です」

差し出された名刺を受け取る。

私も名刺を渡した。

「直人です」

ママは名刺に目を落とした。

そして少し驚いたように顔を上げる。

「金融業なの?」

「はい」

「若いのにすごいわね」

私は苦笑した。

しばらく話をしていると、ママが微笑んだ。

「ミッシェルから色々聞いてるのよ」

私は隣を見る。

ミッシェルが照れくさそうに笑った。

「普通なら難しいのよ」

私は黙って話を聞いた。

「タレントの住まいに部外者を入れるのは、やっぱり心配だからね」

「そうですよね」

ママは小さく頷いた。

「でも、この子が随分熱心に話すのよ」

そう言ってミッシェルを見る。

「ママ~」

ミッシェルが恥ずかしそうに笑った。

「だから会ってみたかったの」

ママはグラスを置き、私に視線を戻した。

「直人君なら大丈夫そうね」

私は首を傾げる。

「え?」

ママは穏やかに微笑んだ。

「タレントのアパートに販売に行ってもいいわよ」

私は思わず言葉を失った。

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