私は茉莉花で早苗が帰ってくるのを待っていた。
時間が過ぎる。
外は少しずつ暗くなり始めていた。
階段を上がる足音が聞こえる。
振り向くと、早苗だった。
「ただいま」
そう言いながら少し笑っている。
私は立ち上がった。
「お疲れ」
早苗がバッグから封筒を取り出す。
「これ」
そう言って差し出した。
私は受け取る。
許可証。
何度も確認した名前。
何度も準備したもの。
それが今、目の前にあった。
「本当に出来たね」
早苗が隣でそう言った。
「ああ」
少しだけ笑う。
早苗がソファーへ座った。
「なんか変な感じ」
「変?」
「ずっと準備してたからかな」
そう言って笑う。
私も隣へ座った。
「ここからだな」
そう言うと、早苗は静かに頷いた。
「うん。ここからだね」
少し話す。
これからのこと。やること。不安や期待。
気付けば外は暗くなっていた。
「月下美人に……いや」
少し笑う。
「もう花水木だな」
「花水木に行ってくる」
私はそう言って茉莉花を出た。
車を走らせ、美緒のマンションへ向かう。
インターホンを押すと、すぐに扉が開いた。
美緒が立っていた。
「おかえり」
そう言いながら嬉しそうに笑う。
部屋へ入ると、美緒がすぐテーブルへ向かった。
「見て」
そう言って許可証を持ってくる。
少しだけ得意そうだった。
私は受け取る。
花水木。
その文字を見る。
「ちゃんと出来たな」
そう言うと、美緒が小さく笑った。
「うん」
美緒が許可証をテーブルへ戻す。
「嬉しい?」
そう聞く。
美緒は少し考えた。
「すごく嬉しい」
そう言って笑う。
「届出制になるのずっと待ってたから」
少し沈黙が流れる。
それから美緒が続けた。
「本当に出来ると思ってなかった」
私はソファーへ座る。
美緒も隣へ来た。
「頑張ったからだろ」
そう言う。
美緒が小さく首を振った。
「一人じゃ無理だったよ」
少し寄り掛かってくる。
「ありがとう」
そう小さく言った。
しばらくそのまま座っていた。
テレビもついていない。
静かな部屋。
けれど嫌じゃなかった。
美緒が立ち上がる。
「お風呂入ろっか」
私は頷いた。
「ちょっと待っててね。お湯ためてくるから」
しばらくして浴室から美緒が呼ぶ。
「いいよー」
浴室へ行くと、いつものように電気は消え、ドアの向こうにキャンドルの灯りが揺れている。
湯船に浸かる。
今日はいつもより静かだった。
美緒が少し笑う。
「なんか安心した」
「終わったから?」
「うん」
少し間が空く。
「あとね」
「ん?」
美緒がこちらを見る。
「一緒だから」
そう言って笑った。
風呂を出ると、自然と美緒が身体を軽く拭いてくれる。
部屋へ戻り、髪をドライヤーで乾かしてもらう。
「はい、終わったよ」
その言葉が合図のようにベッドへ入る。
電気を消した。
隣で美緒が近付く。
「ねぇ」
「ん?」
「今日ね」
少し間が空く。
「すごく幸せ」
そう言った。
私は少し笑った。
「そうか」
美緒が肩へ頭を乗せる。
「ずっと……こうしていたいな」
「ああ」
花水木。
茉莉花。
今日、二つは動き始めた。
そして私たちは、まだその余韻の中にいた。
外では雪が降っている。
けれど。
この部屋だけは暖かかった。

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