190話「雪が止んだ朝」

翌朝、目を覚ますと美緒が私の腕の中で小さな寝息をたて眠っていた。

静かな部屋の中で、昨日のことを思い出す。

許可証。花水木。茉莉花。

ここから始まる。

そんなことを考えていると、美緒がゆっくり目を開けた。

「おはよ」

少し眠そうに笑う。

「おはよう」

美緒が私の胸に顔をうずめてくる。

「なんか変な感じ」

「またそれか?」

そう言うと、美緒が少し笑った。

「昨日も言ったけど」

少し間が空く。

「本当に始まった感じ」

私は小さく笑った。

「今日から忙しくなるな」

美緒が頷く。

「うん」

少しだけ静かな時間が流れる。

「準備しよっか。コーヒー淹れてくるね」

美緒が起き上がりキッチンへ向かった。

私はベッドに横になったまま、ぼんやりと今日する事を考えているとコーヒーのいい香りが漂ってきた。

「コーヒー淹れたよ」

美緒はそう言いながら、ベッドに座り私の髪を軽く指で撫でて整える。

私がソファーに腰を下ろすと、美緒がカップを手渡しながら言った。

「今日は、昨日話した従業員名簿を作りに花水木に行ってくるね」

警察署で作っておくように言われた従業員名簿。

スタッフ。女の子。免許証のコピーか住民票。

揃えるものは多かった。

「やることいっぱいだね」

美緒が少し笑う。

「始まったばかりだからな」

そう言うと、美緒は頷いた。

「うん。でも楽しい」

午後。

美緒は花水木へ向かった。

それから私は茉莉花へ戻った。

そのまま二階に上がり部屋に入ると、早苗が書類を広げていた。

「ただいま」

早苗が顔を上げた。

「あ、おかえり」

机の上には免許証のコピーや従業員名簿の書類。

「従業員名簿か」

早苗が頷いた。

「早急につくって、必ず事務所に保管しておくように言われたから」

少し笑う。

「免許持ってない子は住民票を出してもらわないといけないからね。思ったより大変」

私もソファーへ座った。

「そうだな」

「今、里奈が免許ない子を市役所まで乗せて行ったりしてるんだよね」

しばらく二人で確認する。

記入漏れがないか。

連絡する相手。

やることはまだ多かった。

ふと携帯を見る。

茉莉花を検索してみる。

すぐに表示された。

続けて花水木も見る。

こちらもちゃんと出てきた。

出てくるのは茉莉花と花水木。

しばらく画面を見る。

同じような店は、どこにも表示されなかった。

「どうしたの?」

早苗が聞いた。

「いや」

少し笑う。

「検索すると出るんだな」

早苗も携帯を見る。

少し驚いた顔をした。

「本当だ、携帯でもちゃんと出てるね」

私は携帯を置く。

「これからは堂々と宣伝出来るな」

早苗が頷いた。

「ネットってどれくらい反響あるんだろう?」

「どうなんだろうな。でも少なくとも見てもらう機会は増えるだろ。これだけの情報を載せれて、月にかかる金も新聞広告に比べたら微々たるもんだし」

「そうだね」

「あとはこのホームページを、どうやって広げていくかだよな」

少し考える。

雑誌。紹介。口コミ。もちろん必要だろう。

けれど、これからは違う。

ネットですぐに見れる。

店のコンセプトや雰囲気も伝えられる。

見つけてもらう。

探してもらう。

それも出来る。

「これからは、集客も求人もネットをメインにしていこう」

早苗が笑った。

「なんか会社っぽいね」

私も少し笑う。

外を見る。

雪は止んでいた。

本当に動き始めていた。

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