191話「同じ朝、違う景色」

目が覚めると美緒が柔らかな瞳で、じっと私の寝顔を覗き込んでいた。

「もう起きてたのか?」

ぼんやりとしたまま聞き、また目を閉じる。

「ううん……さっき起きた」

美緒は向き合ったままそう言うと、私の顔を優しく指先でなぞる。

目を開けると目が合う。

二人で少し笑う。

しばらくベッドでゆっくり過ごす。

急ぐ理由はなかった。

美緒が私の肩に頭を乗せる。

「なんか本当に幸せだな」

少し笑う。

「そうか」

美緒が顔を上げた。

「直人さんは?」

私は少し笑った。

「俺も幸せ」

美緒も笑う。

「コーヒー淹れるね」

美緒はベッドから出てキッチンへ向かう。

私は起き上がりベッドから出て、リビングのストーブに火をつける。

しばらくストーブの揺らぐ火を見ていると、コーヒーのいい香りが漂ってきた。

「コーヒー入ったよ」

美緒と並んでソファーへ座る。

いつもの朝だった。

美緒がノートパソコンを開く。

ホームページの確認だろうと思っていた。

「あっ」

美緒が声を出した。

「どうした?」

美緒が画面を見ながら言う。

「問い合わせ来てる」

私は少し身体を起こし画面を覗き込む。

「問い合わせ?」

美緒が頷く。

「何件か来てる」

私はソファーから身を乗り出した。

美緒が画面をこちらへ向ける。

問い合わせフォーム。

予約。

質問。

思っていたより届いていた。

「こんなのもある」

美緒が読み上げる。

「◯◯市なんですけど来てもらえますか?」

私は少し考える。

「そのくらいなら行けるな」

「あとね」

美緒がスクロールする。

「五時間とか六時間コースはないんですか?だって」

私は少し笑った。

「長いな」

美緒も笑う。

「ホームページ百二十分までしか載せてないもんね」

画面を見る。

他にも。

予約は何日前からできますか?

思っていた以上だった。

私はコーヒーを飲む。

「ネットって凄いな」

美緒も頷く。

「ホームページ見てる数も少しずつ増えてるよ」

少し考える。

問い合わせがある。

それはいい。

けれど。

「このままだと分かりにくいな」

美緒がこちらを見る。

「何が?」

「料金や派遣できる地域」

私は画面を見る。

「長時間利用あるなら載せた方がいい」

「たしかに」

私は続ける。

「あとネット予約限定で割引作ろう」

「割引?」

「せっかくホームページ作ったんだから使ってもらった方がいい」

美緒が少し笑う。

「なんか、違う仕事みたい」

私も笑った。

「でも、いい考えだろ?」

少しして。

私は立ち上がる。

「花水木行くか」

美緒が頷いた。

「うん」

それから少し考える。

「あっ」

「ん?」

美緒がこちらを見る。

「電話の対応の仕方も変えよう」

「電話?」

「今までみたいに」

少し考える。

「『はい、花水木です』じゃなくて」

私は続ける。

「『はい。お電話ありがとうございます。花水木です』」

私は少しかしこまった声で言う。

美緒が少し笑う。

「会社みたいだね」

「うん。丁寧に受け答えする方がいい」

少し考える。

「あと電話の受付だな」

「受付?」

私は頷いた。

「弘も悪くないけど」

少し考える。

「受付は美咲にしよう」

「え?」

「女性の方がお客さんも安心するだろうし」

少し間を空ける。

「求人見た女の子も電話しやすいと思う」

美緒は少し考えたあと頷いた。

「……それ、いいかも」

外を見る。

昨日までと同じ朝。

けれど。

やる事は増えていた。

少しずつ。

本当に変わり始めていた。

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