目が覚めると美緒が柔らかな瞳で、じっと私の寝顔を覗き込んでいた。
「もう起きてたのか?」
ぼんやりとしたまま聞き、また目を閉じる。
「ううん……さっき起きた」
美緒は向き合ったままそう言うと、私の顔を優しく指先でなぞる。
目を開けると目が合う。
二人で少し笑う。
しばらくベッドでゆっくり過ごす。
急ぐ理由はなかった。
美緒が私の肩に頭を乗せる。
「なんか本当に幸せだな」
少し笑う。
「そうか」
美緒が顔を上げた。
「直人さんは?」
私は少し笑った。
「俺も幸せ」
美緒も笑う。
「コーヒー淹れるね」
美緒はベッドから出てキッチンへ向かう。
私は起き上がりベッドから出て、リビングのストーブに火をつける。
しばらくストーブの揺らぐ火を見ていると、コーヒーのいい香りが漂ってきた。
「コーヒー入ったよ」
美緒と並んでソファーへ座る。
いつもの朝だった。
美緒がノートパソコンを開く。
ホームページの確認だろうと思っていた。
「あっ」
美緒が声を出した。
「どうした?」
美緒が画面を見ながら言う。
「問い合わせ来てる」
私は少し身体を起こし画面を覗き込む。
「問い合わせ?」
美緒が頷く。
「何件か来てる」
私はソファーから身を乗り出した。
美緒が画面をこちらへ向ける。
問い合わせフォーム。
予約。
質問。
思っていたより届いていた。
「こんなのもある」
美緒が読み上げる。
「◯◯市なんですけど来てもらえますか?」
私は少し考える。
「そのくらいなら行けるな」
「あとね」
美緒がスクロールする。
「五時間とか六時間コースはないんですか?だって」
私は少し笑った。
「長いな」
美緒も笑う。
「ホームページ百二十分までしか載せてないもんね」
画面を見る。
他にも。
予約は何日前からできますか?
思っていた以上だった。
私はコーヒーを飲む。
「ネットって凄いな」
美緒も頷く。
「ホームページ見てる数も少しずつ増えてるよ」
少し考える。
問い合わせがある。
それはいい。
けれど。
「このままだと分かりにくいな」
美緒がこちらを見る。
「何が?」
「料金や派遣できる地域」
私は画面を見る。
「長時間利用あるなら載せた方がいい」
「たしかに」
私は続ける。
「あとネット予約限定で割引作ろう」
「割引?」
「せっかくホームページ作ったんだから使ってもらった方がいい」
美緒が少し笑う。
「なんか、違う仕事みたい」
私も笑った。
「でも、いい考えだろ?」
少しして。
私は立ち上がる。
「花水木行くか」
美緒が頷いた。
「うん」
それから少し考える。
「あっ」
「ん?」
美緒がこちらを見る。
「電話の対応の仕方も変えよう」
「電話?」
「今までみたいに」
少し考える。
「『はい、花水木です』じゃなくて」
私は続ける。
「『はい。お電話ありがとうございます。花水木です』」
私は少しかしこまった声で言う。
美緒が少し笑う。
「会社みたいだね」
「うん。丁寧に受け答えする方がいい」
少し考える。
「あと電話の受付だな」
「受付?」
私は頷いた。
「弘も悪くないけど」
少し考える。
「受付は美咲にしよう」
「え?」
「女性の方がお客さんも安心するだろうし」
少し間を空ける。
「求人見た女の子も電話しやすいと思う」
美緒は少し考えたあと頷いた。
「……それ、いいかも」
外を見る。
昨日までと同じ朝。
けれど。
やる事は増えていた。
少しずつ。
本当に変わり始めていた。

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