翌日の昼前。
茉莉花の二階の部屋で、ソファーに背を預け昨日の弘と話したことを頭の中で確認していた。
弘には、今日から月下美人に在籍が五人増えること、待機場所は茉莉花にすることを伝えてある。
女の子のイメージも共有してあり、仕事が入れば早苗にメールで連絡が届くよう段取りしていた。
窓の外は、いつもと変わらない光景だった。
ただ、空気だけが少し違っている気がした。
一階から、いくつかの声が聞こえてくる。
笑い声と、少し硬さの残る受け答え。
その中に、里奈ちゃんの少し高い声も混じっていた。
早苗と里奈ちゃん、それに綾さんがいれば、店は問題なく回る。
時折、足音が階段の方まで近づいては、また遠ざかっていく。
その気配だけで、だいたいの様子は分かる。
階段を上ってくる足音が聞こえ、ドアが開いた。
「弘君から連絡あって、二件予約入ったよ。
それとさ、みんな事務所広くて綺麗だって言ってる」
早苗が少し嬉しそうに言う。
「そうか、早苗はセンスがいいからな」
「まあね」
早苗が返すと同時に、階段の下から声が届く。
「早苗、時間だから行ってくるねー」
里奈ちゃんの元気な声だった。
早苗がドアを開ける。
「行ってらっしゃい、気をつけてねー」
「行ってきます」
綾さんと、女の子の声が重なる。
少しして、駐車場でエンジンをかける音がした。
「あ、コーヒー淹れてくるね」
早苗は足早に階段を下りて行った。
順調すぎるくらいだな、とぼんやり思う。
そのとき、テーブルの上に置いていた携帯が震えた。
画面を見ると、弘からメールだった。
『お疲れです。美咲ちゃんが撮影した女の子のデータはどうしたらいいですか?』
『お疲れ。美緒にお前に連絡してから取りに行くように伝えておく』
弘に返信して、美緒にメールした。
『分かりました。弘さんに連絡して月下美人の事務所に行ってきます』
美緒からはすぐに返信がきた。
携帯を手にしたままソファーにもたれ、ぼんやりしていると、美緒の柔らかに微笑んだ姿が自然と頭に浮かぶ。
階段を上ってくる足音が聞こえ、ドアが開くと同時に携帯を閉じた。
早苗はコーヒーをテーブルに置き、隣に座る。
「実際に女の子が事務所にいると、始まったんだって実感するよね」
小さく頷きながら言った。
「うん、茉莉花もいよいよ動き出したな。
三人の役割とかはどう決めてるんだ?」
「えっとね、基本的に私は事務所で電話の応対で、里奈と綾さんが送迎って感じかな」
「それがいいだろうな。早苗が店長みたいなもんだからな」
カップを手に取り、コーヒーを口に運びながら言う。
「あ、店長で思い出したけど、女の子が私のことママって呼ぶのよ」
早苗は少し照れたように言う。
「ママか、いいんじゃないか。
名前とか店長って呼ばれるよりいいだろ」
「それはそうだけど……なんか照れくさいよね」
コーヒーを一口飲み、早苗に向き直る。
「早苗は、店を仕切ってやっていかないといけないんだから。
茉莉花の顔だからな」
「うん……あなたも一緒だよね?」
少し不安げな顔で言う。
「当たり前じゃないか。表は早苗、裏は俺。
この仕事は、必ず裏で動かないといけないときがあるから。
俺は裏でサポートするんだよ」
「うん、分かった」
早苗は安心したように微笑み、私も小さく笑って返した。
早苗の携帯が鳴る。
「あ、弘君からメールだ」
早苗は手早く返信すると、
「仕事入ったから、女の子に準備するように言ってくるね」
と言い、足早に階段を下りて行った。
窓から外を眺めていると、里奈ちゃんが運転する車が事務所に戻ってきた。
少し間が空き、
「ただいまー!」
と元気な声が下から聞こえた。
動き出した事務所の雰囲気を上で感じながら、少し冷めたコーヒーを飲み干した。

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