152話「残る微笑み」

翌日の昼前。

茉莉花の二階の部屋で、ソファーに背を預け昨日の弘と話したことを頭の中で確認していた。

弘には、今日から月下美人に在籍が五人増えること、待機場所は茉莉花にすることを伝えてある。  

女の子のイメージも共有してあり、仕事が入れば早苗にメールで連絡が届くよう段取りしていた。

窓の外は、いつもと変わらない光景だった。

ただ、空気だけが少し違っている気がした。

一階から、いくつかの声が聞こえてくる。

笑い声と、少し硬さの残る受け答え。

その中に、里奈ちゃんの少し高い声も混じっていた。

早苗と里奈ちゃん、それに綾さんがいれば、店は問題なく回る。

時折、足音が階段の方まで近づいては、また遠ざかっていく。

その気配だけで、だいたいの様子は分かる。

階段を上ってくる足音が聞こえ、ドアが開いた。

「弘君から連絡あって、二件予約入ったよ。  

それとさ、みんな事務所広くて綺麗だって言ってる」

早苗が少し嬉しそうに言う。

「そうか、早苗はセンスがいいからな」

「まあね」

早苗が返すと同時に、階段の下から声が届く。

「早苗、時間だから行ってくるねー」

里奈ちゃんの元気な声だった。

早苗がドアを開ける。

「行ってらっしゃい、気をつけてねー」

「行ってきます」

綾さんと、女の子の声が重なる。

少しして、駐車場でエンジンをかける音がした。

「あ、コーヒー淹れてくるね」

早苗は足早に階段を下りて行った。

順調すぎるくらいだな、とぼんやり思う。

そのとき、テーブルの上に置いていた携帯が震えた。

画面を見ると、弘からメールだった。

『お疲れです。美咲ちゃんが撮影した女の子のデータはどうしたらいいですか?』

『お疲れ。美緒にお前に連絡してから取りに行くように伝えておく』

弘に返信して、美緒にメールした。

『分かりました。弘さんに連絡して月下美人の事務所に行ってきます』

美緒からはすぐに返信がきた。

携帯を手にしたままソファーにもたれ、ぼんやりしていると、美緒の柔らかに微笑んだ姿が自然と頭に浮かぶ。

階段を上ってくる足音が聞こえ、ドアが開くと同時に携帯を閉じた。

早苗はコーヒーをテーブルに置き、隣に座る。

「実際に女の子が事務所にいると、始まったんだって実感するよね」

小さく頷きながら言った。

「うん、茉莉花もいよいよ動き出したな。  

三人の役割とかはどう決めてるんだ?」

「えっとね、基本的に私は事務所で電話の応対で、里奈と綾さんが送迎って感じかな」

「それがいいだろうな。早苗が店長みたいなもんだからな」

カップを手に取り、コーヒーを口に運びながら言う。

「あ、店長で思い出したけど、女の子が私のことママって呼ぶのよ」

早苗は少し照れたように言う。

「ママか、いいんじゃないか。  

名前とか店長って呼ばれるよりいいだろ」

「それはそうだけど……なんか照れくさいよね」

コーヒーを一口飲み、早苗に向き直る。

「早苗は、店を仕切ってやっていかないといけないんだから。  

茉莉花の顔だからな」

「うん……あなたも一緒だよね?」

少し不安げな顔で言う。

「当たり前じゃないか。表は早苗、裏は俺。  

この仕事は、必ず裏で動かないといけないときがあるから。  

俺は裏でサポートするんだよ」

「うん、分かった」

早苗は安心したように微笑み、私も小さく笑って返した。

早苗の携帯が鳴る。

「あ、弘君からメールだ」

早苗は手早く返信すると、

「仕事入ったから、女の子に準備するように言ってくるね」

と言い、足早に階段を下りて行った。

窓から外を眺めていると、里奈ちゃんが運転する車が事務所に戻ってきた。

少し間が空き、

「ただいまー!」

と元気な声が下から聞こえた。

動き出した事務所の雰囲気を上で感じながら、少し冷めたコーヒーを飲み干した。

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