72話「山の刑務所」

陣さんのいる刑務所は山の上にある。

最寄り駅からでも、車で山道をしばらく上らないといけない場所だ。

道は細く、カーブも多い。

ほとんど刑務所に行く人しか通らないような道で、両側には木がうっそうと茂っている。

面会の日、私は駅で水田由美さんと待ち合わせていた。

少し寂れた駅は閑散としていて、人影もまばらだった。

この日が、由美さんとは初めて会う日だった。

改札の前で待っていると、一人の女性がこちらに歩いてきた。

三十代半ばくらいだろうか。

落ち着いたきれいめの服装で、綺麗な人だった。

ただ、どこか落ち着きすぎているというか、少し影のある雰囲気の人だった。

「直人さんですか?」

落ち着いた声だった。

「はい。村上です」

軽く挨拶をして、二人で車に乗り込んだ。

駅を出てしばらくすると、道はすぐ山道になる。

すれ違う車もなく、カーブの多い細い道を、ゆっくりと上っていった。

「遠いですね」

由美さんが窓の外を見ながら言った。

「山の上なんで」

それだけ答えると、車の中は静かになった。

初対面ということもあって、必要なこと以外はあまり話さなかった。

山道をしばらく上ると、急に視界が開けた。

その先に、厳つい門が見える。

高い塀と鉄の門。陣さんのいる刑務所だった。

「ここです」

そう言うと、由美さんは静かに前を見た。

「……そうですか」

それだけ言って、小さく頷いた。

由美さんは手慣れた様子で面会の手続きを済ませ、二人で待合室に入った。

拘置所の待合室より、さらに重苦しい空気が漂っていた。

面会ができるのは身内だけだから、私は外で待っているしかない。

しばらくして、由美さんが戻ってきた。

「主人、元気そうでした」

車に戻ると、由美さんがそう言った。

「そうですか」

「外の話をすると、やっぱり嬉しそうでしたね」

私は軽く頷いた。

山道を下りながら、しばらく沈黙が続いた。

やがて由美さんが、窓の外を見ながら言った。

「刑務所って……独特ですよね」

「そうですね」

「ああいう場所って、何度行っても緊張するんですよね」

少し笑って、そう言った。

その言い方が妙に自然だった。

私は何も聞かなかった。

でも、そのときふと思った。

この人――ああいう場所を知っている人かもしれない。

駅に着くと、由美さんはシートベルトを外した。

「今日はありがとうございました」

「いえ」

「あっ、近くに来られることがあったら寄ってください」

そう言って名刺を差し出し、微笑んだ。

由美さんは軽く頭を下げて車を降りた。

改札の方へ歩いていく後ろ姿を、しばらく見ていた。

名刺を見ると、

「BAR 渚」 と書いてあった。

住所は、私の住んでいる街から車で二時間ほどの、海沿いの街だった。

落ち着いた大人の女性。

綺麗な人だったが、どこか影のある雰囲気の人だった。

私はエンジンをかけた。

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