陣さんのいる刑務所は山の上にある。
最寄り駅からでも、車で山道をしばらく上らないといけない場所だ。
道は細く、カーブも多い。
ほとんど刑務所に行く人しか通らないような道で、両側には木がうっそうと茂っている。
面会の日、私は駅で水田由美さんと待ち合わせていた。
少し寂れた駅は閑散としていて、人影もまばらだった。
この日が、由美さんとは初めて会う日だった。
改札の前で待っていると、一人の女性がこちらに歩いてきた。
三十代半ばくらいだろうか。
落ち着いたきれいめの服装で、綺麗な人だった。
ただ、どこか落ち着きすぎているというか、少し影のある雰囲気の人だった。
「直人さんですか?」
落ち着いた声だった。
「はい。村上です」
軽く挨拶をして、二人で車に乗り込んだ。
駅を出てしばらくすると、道はすぐ山道になる。
すれ違う車もなく、カーブの多い細い道を、ゆっくりと上っていった。
「遠いですね」
由美さんが窓の外を見ながら言った。
「山の上なんで」
それだけ答えると、車の中は静かになった。
初対面ということもあって、必要なこと以外はあまり話さなかった。
山道をしばらく上ると、急に視界が開けた。
その先に、厳つい門が見える。
高い塀と鉄の門。陣さんのいる刑務所だった。
「ここです」
そう言うと、由美さんは静かに前を見た。
「……そうですか」
それだけ言って、小さく頷いた。
由美さんは手慣れた様子で面会の手続きを済ませ、二人で待合室に入った。
拘置所の待合室より、さらに重苦しい空気が漂っていた。
面会ができるのは身内だけだから、私は外で待っているしかない。
しばらくして、由美さんが戻ってきた。
「主人、元気そうでした」
車に戻ると、由美さんがそう言った。
「そうですか」
「外の話をすると、やっぱり嬉しそうでしたね」
私は軽く頷いた。
山道を下りながら、しばらく沈黙が続いた。
やがて由美さんが、窓の外を見ながら言った。
「刑務所って……独特ですよね」
「そうですね」
「ああいう場所って、何度行っても緊張するんですよね」
少し笑って、そう言った。
その言い方が妙に自然だった。
私は何も聞かなかった。
でも、そのときふと思った。
この人――ああいう場所を知っている人かもしれない。
駅に着くと、由美さんはシートベルトを外した。
「今日はありがとうございました」
「いえ」
「あっ、近くに来られることがあったら寄ってください」
そう言って名刺を差し出し、微笑んだ。
由美さんは軽く頭を下げて車を降りた。
改札の方へ歩いていく後ろ姿を、しばらく見ていた。
名刺を見ると、
「BAR 渚」 と書いてあった。
住所は、私の住んでいる街から車で二時間ほどの、海沿いの街だった。
落ち着いた大人の女性。
綺麗な人だったが、どこか影のある雰囲気の人だった。
私はエンジンをかけた。

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