67話「兄貴と呼ぶ男」

「あっ!兄貴!兄貴じゃないですかー!」

背後から響いた声に振り返ると、手を振りながら駆け寄ってくる男がいた。

色落ちしたデニムに派手なシャツ。無造作な髪。相変わらずだ。

「弘……」

「うわ、マジで兄貴だ。何してんすかこんなとこで。俺、最初見間違いかと思いましたよ」

距離が近い。声もでかい。昔と何も変わっていない。

「お前こそ、何してんだよ」

「いやあ、彼女の送り迎えっす。今仕事中なんで。俺はまあ、サポート役っすね」

悪びれる様子もなく笑う。

相変わらずだ。

弘とは学生の頃からの付き合いだ。

私を兄貴と呼び、いつも後ろをついて歩いていた。

私が高校を辞めたあと、しばらくして弘も学校を辞めた。

理由は聞かなかった。

聞かなくてもわかっていた。

弘は一歩近づき、ほんの少しだけ声の調子を落とした。

「兄貴、いま何やってんすか?」

「俺か。まあ……色々だよ」

弘の顔から、さっきまでの笑顔が消えた。

「俺、また兄貴と動きたいっす」

昔と同じ眼差しで、真っ直ぐに私を見る。

即答はしない。

「今はそんな簡単なもんじゃない」

「簡単じゃない方が面白いじゃないすか」

迷いのない顔だった。

私は小さく息を吐く。

「……とりあえず、車乗れ」

弘は一瞬きょとんとしたあと、ぱっと顔を明るくした。

「マジっすか? 兄貴、やっぱ最高っす」

助手席のドアが開く。

気づけば、また隣にいる。

昔と同じように。

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