「あっ!兄貴!兄貴じゃないですかー!」
背後から響いた声に振り返ると、手を振りながら駆け寄ってくる男がいた。
色落ちしたデニムに派手なシャツ。無造作な髪。相変わらずだ。
「弘……」
「うわ、マジで兄貴だ。何してんすかこんなとこで。俺、最初見間違いかと思いましたよ」
距離が近い。声もでかい。昔と何も変わっていない。
「お前こそ、何してんだよ」
「いやあ、彼女の送り迎えっす。今仕事中なんで。俺はまあ、サポート役っすね」
悪びれる様子もなく笑う。
相変わらずだ。
弘とは学生の頃からの付き合いだ。
私を兄貴と呼び、いつも後ろをついて歩いていた。
私が高校を辞めたあと、しばらくして弘も学校を辞めた。
理由は聞かなかった。
聞かなくてもわかっていた。
弘は一歩近づき、ほんの少しだけ声の調子を落とした。
「兄貴、いま何やってんすか?」
「俺か。まあ……色々だよ」
弘の顔から、さっきまでの笑顔が消えた。
「俺、また兄貴と動きたいっす」
昔と同じ眼差しで、真っ直ぐに私を見る。
即答はしない。
「今はそんな簡単なもんじゃない」
「簡単じゃない方が面白いじゃないすか」
迷いのない顔だった。
私は小さく息を吐く。
「……とりあえず、車乗れ」
弘は一瞬きょとんとしたあと、ぱっと顔を明るくした。
「マジっすか? 兄貴、やっぱ最高っす」
助手席のドアが開く。
気づけば、また隣にいる。
昔と同じように。

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