最近は、午前中は刺青、午後からは恵美さんとの仕事の準備。
それが一日のルーティンのようになっていた。
毎日、熱と痛みに付き合う日々。
線で描かれていた鯉に鱗が入り、目が彫られ、色が差されていく。
日を追うごとに輪郭は厚みを持ち、やがてリアルな真鯉へと姿を変えていった。
鏡に映る、真っ黒に彫られた鯉。
それを見つめながら、私自身も黒に染まっていっているような気がした。
ある日、彫り師の先生が針を動かしながら、ぽつりと言った。
「あんた、恵美のところで働いてるんだってな」
「あっ、はい」
「恵美とは長いのか?」
付き合っていたことは言わず、長くないとだけ曖昧に答えた。
「そうか。それじゃ知らないだろうが、恵美はな、ある組長の姐さんだったんだ。
色んな事情で組はなくなったが、あいつは残った。
大したやつだよ、恵美は」
知らなかった。
普通の人生を歩んできた人ではないとは思っていた。
だが、姐さんだったとは。
組がなくなり、すべてを失い、何もない状態から今の立場を築いた。
その道のりがどれほどのものだったのか、私には想像もできない。
恵美さんの背中の刺青は、
私のような覚悟や決意とは比べものにならない、
もっと重い何かを背負っているのだと思った。
事務所として借りた部屋は、家具や備品が揃うたびに、
少しずつ“仕事場”の顔をしていった。
女の子は恵美さんが何人か集めているらしい。
募集もかけていた。
今日は面接の日だった。
面接といっても、年齢確認と経験の有無、
経験者なら以前の店やバンスの有無の確認。
要するに、トラブル防止だ。
ファミレスの駐車場に車を停め、車から降りて大きく伸びをした、その時。
「あっ!兄貴!兄貴じゃないですかー!」
背後から声が飛んできた。
振り返ると、手を振りながらこちらに駆けてくる男がいた。

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