朝目覚めると、早苗はもうベッドにいなかった。
昼前に差し掛かろうかという時間だったが、リビングに行くとコーヒーの香りが漂っている。
コーヒーメーカーには、淹れたばかりのコーヒーがまだ湯気を立てていた。
マグカップに注ぎ、ソファに腰を下ろす。
今日は予定がいくつかあるので、頭の中で整理をしていた。
そこへ早苗がリビングに入ってきた。
「あっ、起きたんだね。おはよう」
買い物に出かけていたらしく、パン屋の袋を下げている。
「そうそう、手紙届いてたよ」と封書を差し出す早苗。
「ご飯の支度するね」と微笑んだ。
封書は陣さんからだった。
手紙には、水田由美という女性の住所・電話番号と、陣さんのお母さんの住所・電話番号が書かれていた。
内容は、水田由美に私の電話番号を伝えてあるので、連絡を取り合い刑務所の面会に連れて来てほしい、ということ。
もし由美に連絡がつかなくなったら、お母さんに連絡して面会に来てもらうように、とのことだった。
最後に、
「知り合ったばかりで頼み事ばかりで申し訳ない。
出てきた暁には、きちんと礼をするので頼んでおく。
もうすぐ刑が確定するから返信は無用だ。
再会を楽しみにしている」
と書かれていた。
水田由美とはどんな人で、陣さんとどんな関係なのか。
形上は結婚しているから奥さんだが、初めから連絡が取れなくなった話をするのは利用するつもりなのか。
いずれにせよ、近いうちに会うことになるのだろう。
早苗に話せば怒り出すだろうと、手紙はそっとしまった。
ふと気づくと、早苗に嘘をついたり隠し事をすることに、あまり抵抗がなくなっている自分がいた。
早苗のことは愛しているし、大事に思っている。
それは変わらない。
でも、自分の中で何かが変わっていっているような気がした。

コメント