217話「ミッシェルの歌」

店内の客は少しずつ増え始めていた。

黒木ママも他のテーブルを回るようになり、先ほどまでのようにゆっくり話をする時間はなくなっていた。

それでも時折こちらに顔を向けては微笑んでくれる。

私はリトとミッシェルと話しながらグラスを傾けていた。

しばらくすると店内の照明が少し落とされる。

「ショータイムだヨ」

リトがそう言った。

ステージへ向かったのはミッシェルだった。

音楽が流れ始める。

私は自然と視線を向けた。

ミッシェルの歌声が店内に響く。

歌が上手い。

それだけではなかった。

少しハスキーな歌声。

どこか人を惹きつけるような歌い方。

気付けば私はグラスを持つ手を止めて聴き入っていた。

店内の客たちも静かに歌声へ耳を傾けている。

曲が終わると大きな拍手が起こった。

ミッシェルは笑顔で手を振りながらステージを降りる。

「どうだった?」

席へ戻ってきたミッシェルが聞く。

「すごく良かったよ」

私がそう答えるとミッシェルは嬉しそうに笑った。

「ありがとうネ」

その後もショータイムは続いた。

途中からはリトがカラオケでステージへ上がる。

慣れた様子でタガログ語の歌を歌い始めると、タレントたちから歓声が上がった。

「リトー!」

「キャー!」

店内は一気に賑やかになる。

私はその様子を見ながら思わず笑った。

リトもすっかり人気者らしい。

気付けば時間はあっという間に過ぎていた。

ショータイムも終わり、店内の客たちも少しずつ帰り始める。

そして気付けば閉店の時間になっていた。

店が終わる頃にリトが言う。

「ナオト、またカレンデリア行く?」

「いいね!行きたい」

ミッシェルも賛成する。

私たちはそのままカレンデリアへ向かった。

店に入り食事を注文する。

リトはビール、私とミッシェルはマンゴージュースでグラスを合わせる。

ひと息ついたところでリトが笑った。

「今日はうまくいって良かったネ」

「本当だな」

私は頷いた。

黒木ママがここまで協力してくれるとは思っていなかった。

「最初は練習の日に販売へ行こうと思うんだ」

私がそう言うとミッシェルが首を傾げた。

「どうして?」

「ママにもアクセサリーを見てもらいたいから」

ミッシェルは納得したように頷く。

「ママ、アクセサリー好きだヨ」

「そうみたいだな」

「こういうのよく付けてるネ」

ミッシェルは自分の耳や腕を指差しながら説明する。

「あと腕時計も好きヨ」

「腕時計?」

「うん。いろいろ持ってるネ」

私は思わず笑った。

黒木ママらしい。

販売へ行く前に聞けて良かったかもしれない。

「練習の日は今度教えるネ」

「助かるよ」

そう言って私はマンゴージュースを一口飲んだ。

次に店へ行く時は、黒木ママにもアクセサリーを見てもらおう。

そんなことを考えながら、私は二人との話を続けた。

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