218話「アパートの扉の向こう」

カレンデリアを出ると、私たちはミッシェルをアパートまで送ることになった。

夜も遅くなっている。

車はミッシェルの案内で静かな住宅街へ向かっていた。

後部座席に座るミッシェルがふと思い出したように聞く。

「ナオト、アクセサリーってどんなの売ってるノ?」

「いろいろあるよ」

「ネックレスとかピアスとか?」

「そんな感じ」

私が答えると、リトも話に加わった。

「MAHALグループだとゴールド系が人気ネ」

「あー、そうそう」

私も頷く。

販売へ行くたびに売れているのは、やはりゴールド系のアクセサリーが多かった。

ミッシェルは少し考えるような表情をした。

「今日持ってきてる?」

「持ってきてるよ」

「見たいネ」

私は思わず笑った。

「今から?」

「うん」

ミッシェルは楽しそうに頷く。

「アパート着いたら部屋で見せてヨ」

「分かった」

販売へ行く前に意見を聞けるなら、その方がありがたい。

そんな話をしているうちに車は住宅街へ入った。

周囲には住宅が並び、人通りも少ない。

店で黒木ママが話していた通り、静かな環境だった。

やがて一棟の綺麗なアパートの前で車が止まる。

三階建ての立派な建物だ。

前には広い駐車場もある。

私は周囲を見回した。

だが不思議なことに車が一台も停まっていない。

「ここはタレントだけが住んでるの?」

私が聞くとミッシェルが頷いた。

「そうだヨ」

そして当然のように続ける。

「このアパート、ママのだからネ」

「えっ?」

私は思わず聞き返した。

「ママのアパート?」

「うん。全部の部屋タレント住んでるヨ」

私は驚いた。

店だけではない。

アパートまで所有しているとは思わなかった。

黒木ママは私が想像していた以上にやり手らしい。

私は車のトランクからアクセサリーの入ったバッグを取り出した。

そしてミッシェルに案内されてアパートへ入る。

部屋の扉が開いた瞬間、私はまた驚いた。

「広いな」

思わず声が漏れる。

MAHALグループの寮とは全く違っていた。

ダイニングテーブルが置かれ、エアコンも備え付けられている。

しかもコインを入れて動かすタイプではない。

テレビや家具も綺麗なものが揃えられていた。

「二人で住んでるヨ」

ミッシェルが説明する。

どうやら二LDKの部屋を二人で使っているらしい。

十分すぎるほど広かった。

私は改めて部屋を見回した。

タレントたちが快適に暮らせるように考えられているのがよく分かる。

「すごいな」

「そう?」

ミッシェルは当たり前のように笑った。

どうやら本人たちにとっては、この環境が普通らしい。

私はダイニングテーブルの上にアクセサリーを並べた。

ネックレス。

ピアス。

ブレスレット。

販売用に持ち歩いている商品を順番に並べていく。

ミッシェルは椅子に座りながら一つ一つ手に取って眺めていた。

時折、

「これ可愛いネ」

などと言いながら楽しそうに見ている。

しばらくするとミッシェルがあるアクセサリーケースを指差した。

「たぶん黒木のタレント、こっち好きヨ」

それは私が、茉莉花や花水木の女の子向けに仕入れていたアクセサリーケースだった。

「こっち?」

「うん」

ミッシェルは頷く。

「たぶん人気あるネ」

私は今日の店内の様子を思い出した。

確かに黒木のタレントたちの雰囲気にはよく合いそうだ。

「なるほどな」

販売へ行く前に聞けて良かった。

私はテーブルの上に並んだアクセサリーを見ながら頷いた。

次に黒木へ行く時は、持っていく商品を少し変えてみよう。

販売のヒントを得られただけでも、今夜ここへ来た価値は十分にあった。

私はそう思いながら、ミッシェルの話に耳を傾けた。

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