203話「遠くからの声」

しばらく早苗と話したあと。

私は残っていたコーヒーを飲み干した。

部屋の空気も、さっきまでの話も少し落ち着いていた。

その時。

テーブルの上に置いていた携帯が鳴る。

画面を見るとリトだった。

「もしもし」

電話に出ると、すぐにリトの声が聞こえた。

「この前話した◯◯市のお店のタレントのことなんだけどネ」

私は少し考える。

空港に行ったとき話していた店だ。

「うん」

「今日の仕事終わってからアクセサリー見たいって連絡来たんだけど大丈夫かナ?」

その場所は夜中なら車で三十分くらいだ。

「大丈夫」

そう答えると。

「分かった、じゃ仕事終わる前に連絡するネ!」

そう言って電話は切れた。

私は携帯をテーブルへ置く。

「リト?」

早苗が聞いた。

「うん」

私は電話の内容を話すと、早苗が少し驚いた顔をした。

「そんな遠くまで行くようになったんだ」

「そうだな」

改めて思う。

気付けば。

そんな場所からも声が掛かるようになっていた。

少し前までは想像もしなかった。

私は立ち上がる。

「ちょっと花水木に行ってくる」

「うん、いってらっしゃい。気を付けてね」

「うん、分かった」

茉莉花を出ると、外は暗くなり始めていた。

車へ乗り込みエンジンを掛ける。

向かう先は美緒のマンションだった。

マンションへ着くと、美緒が出迎えてくれた。

部屋にはいつもの甘く良い匂いが広がっている。

部屋へ入り、私はリトからの電話の話をする。

「今日の夜?」

美緒が少し驚く。

「うん」

「三人で行くの?」

「うん、初めての場所だしな」

すると、美緒が少し嬉しそうに笑った。

「すごいね」

「何が?」

私が聞くと。

「アクセサリー販売」

美緒が続ける。

「また広がったんだなって」

私は少し笑う。

確かに、少しずつだけど。

前へ進んでいた。

私は時計を見る。

夜までは、まだ少し時間があった。

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