「よし、これでとりあえず終わったね」
早苗が目頭を押さえながら言う。
「うん、すごく良くなったな」
私はパソコンの画面を覗き込み言った。
茉莉花と花水木の届出を終えてから数日。
届出してから新たに始めたホームページも少しずつ改善した。
あれだけ慌ただしかった時間もだいぶ落ち着いた。
やることが無くなった訳じゃない。
むしろ、やることはまだ沢山ある。
ただ、ようやく少しだけ息をつけるようになった。
夕方、私は車を走らせ美緒のマンションへ向かっていた。
インターホンを押すと、すぐ扉が開く。
「おかえり」
美緒の笑顔と甘く落ち着く匂いに迎えられる。
「ただいま」
部屋へ入ると、美緒が私の顔を見ながら少し眉を下げた。
「……寝てないんじゃない?」
「なんで?」
「だって顔疲れてる」
私は少し笑った。
「少しバタバタしてただけ」
美緒は少し心配そうな顔をする。
「ずっと茉莉花で仕事だったの?」
「うん、そうだな」
完全に嘘ではない。
けれど、全部話すこともできない。
美緒は小さく頷いた。
「じゃあ今日はゆっくりして」
私はソファへ腰を下ろす。
美緒も隣へ座った。
肩が触れ、自然と寄りかかってくる。
「届出のあと、ずっと忙しかったもんね」
「ああ」
「少し安心した」
美緒が小さく笑う。
私はその横顔を見ながら少し笑った。
しばらく何も話さない。
けれど、そんな時間が心地良かった。
少しして、美緒がテーブルの上に置いていた手帳を開いた。
「あっ、そうだ」
「ん?」
美緒が手帳を見ながら言う。
「明後日ね。MAHALの子が三人フィリピン帰る日なんだ」
「あっ、近々帰国するタレントいたな。今週だったか」
「空港でアクセサリー残金の集金あるし」
美緒がページを指差す。
「だから行かなきゃ」
私は携帯を取り出しリトへ連絡を入れる。
「リト、今大丈夫?」
「オー、ナオト大丈夫ヨ!電話しようと思ってたヨ」
リトはすぐに電話に出た。
「帰るタレントたちの件なんだけど」
「アー、新しい子来る日ネ!」
「入れ替わりなんだな」
「ダカラ私も空港行くヨ!」
「そっか。じゃあ一緒に行こうか」
「ウン!ナオトと一緒に行きたいヨ!」
「分かった、それじゃ明後日マンションに迎えに行くから」
私はリトと約束して電話を切った。
「リトも一緒に行くって」
「じゃあ三人だね」
美緒が笑った。
「空港で仕事とか初めてだな」
「そうだね」
手帳を閉じる美緒。
少し前まで。
目の前のことだけで精一杯だった。
けれど今は。
明後日の予定を考える余裕くらいはできた。
私はソファへ深く座った。
明後日か。
また少し忙しくなりそうだった。

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