ホテルを出て茉莉花へ戻る頃には、外はすっかり深夜の顔になっていた。
二人で階段を上がり部屋へ入る。
ストーブの暖かさ。
見慣れた部屋。
早苗がコートを脱ぎながら小さく笑う。
「なんか落ち着くね」
「ああ」
私は携帯を取り出し美緒に短くメールを送る。
『今日は茉莉花で少し仕事があるから遅くなる』
すぐ返信が来た。
私は携帯をしまった。
早苗が聞く。
「メール?」
「ああ、ちょっと連絡」
それだけ答えた。
早苗もそれ以上は聞かなかった。
ベッドへ腰掛け、しばらく何も話さなかった。
早苗は隣に座り、自然に肩へ寄りかかる。
「久しぶりに楽しかったね」
「ああ」
見慣れた部屋に、寝慣れたベッド。
そして、いつもの場所。
それなのに少しだけ新鮮だった。
早苗は立ち上がりクローゼットを開ける。
「はい、これに着替えて」
早苗のマンションに住んでいた頃からいつも着ていた部屋着だ。
袖を通し着替えると、早苗のいい匂いがした。
私が脱いだジャケットをハンガーにかけ、洋服をたたみ、早苗は部屋着に着替えはじめた。
私はその様子を眺めていると、早苗が笑う。
「見過ぎだよ」
「ごめん」
二人で少し笑った。
電気を消すと、間接照明の淡い光が部屋を照らす。
布団へ入ると、早苗が自然に抱きついてきた。
いつもの感覚。
少しだけ久しぶりの感覚。
気付けばそのまま眠っていた。
朝、目を覚ますと隣には早苗がいる。
まだ少し眠そうな顔。
私に気付くと小さく笑う。
「……おはよう」
「おはよう」
早苗が布団の中で私に抱きつき、胸に顔をうずめる。
「まだ少しこうしてたい」
私は少し笑った。
「ああ」
しばらくそのまま過ごす。
何もしない時間。
それが妙に心地良かった。
少ししてベッドを出る。
着替えを済ませ二人で一階へ下りた。
まだ店が始まる前。
静かなリビング。
早苗がコーヒーを入れる。
私はソファーに腰を下ろし、コーヒーを淹れる早苗をぼんやりと眺めていた。
早苗がカップを手渡し、ソファーへ座りながら言った。
「なんか今日……久しぶりにすごく眠い」
「うん、俺も。昨日久しぶりに出かけたからな」
二人で顔を見合わせて笑う。
そんな話をしていると階段を下りる音。
里奈ちゃんが寝ぼけた顔で現れた。
「あれ……二人とも早い」
私たちを見て、少し黙る。
それからニヤッと笑った。
「昨日二人でどこ行ってたの?」
早苗が少し困った顔をする。
「ちょっとご飯に行っただけよ」
「ふーん」
里奈ちゃんが笑いながらソファーへ座る。
コーヒーを渡すと嬉しそうに受け取った。
三人で座る。
自然と話は仕事のことになった。
これからの店のこと。
女の子のこと。
やることはまだ沢山ある。
けれど、少し前より。
こんな時間が少しだけ心地良かった。

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