花水木を出て、車を走らせ茉莉花へ戻った。
二階へ上がると、ストーブの暖かさが二階の部屋を包んでいた。
「あっ、おかえり」
早苗はパソコンのキーボードを打つ手を止め顔を上げる。
私は早苗の隣に座りながら声をかけた。
「なあ」
早苗がこちらを見る。
「ん?」
私は少し考えてから言った。
「たまには綾さんに電話受付頼んでみたらどうだ?」
早苗が少し驚いた顔をする。
「え?」
「届出も終わったし。少しくらい大丈夫だろ」
早苗が少し黙る。
「でも……」
私は笑う。
「久しぶりに出かけよう」
早苗が私を見る。
それから小さく笑った。
「……うん」
早苗が立ち上がり部屋を出て行く。
階段を下りていく音。
しばらくして、階段を上がってくる足音がしてドアが開いた。
早苗が少し笑いながら言う。
「大丈夫だって」
私は立ち上がった。
「じゃあ行くか」
「うん」
外へ出ると冷たい風が頬にあたる。
「私の車で行こう」
早苗は車の鍵をかざし軽く振りながら微笑んだ。
駐車場に停まる早苗の車の助手席へ乗り込む。
エンジンがかかると早苗が好きで、二人でよく聴いていた静かな洋楽が流れる。
車が動き出した。
窓の外を見ながら私は言う。
「こうして出かけるの久しぶりだな」
早苗が前を見たまま笑う。
「そうだね」
少し沈黙がながれる。
「最近ずっと仕事だったし」
「ああ」
私は頷いた。
信号で止まると、早苗が少し笑う。
「でも嫌じゃなかった」
私は横を見る。
あの頃は、こうして隣に座れることを当たり前だと思っていた。
「俺もだ」
また車が走り出した。
「ねぇ、久しぶりにあの店でご飯食べようよ」
早苗が懐かしそうに言う。
「ああ、ビストロ パナシェか」
「うん!」
私が逮捕される前に、二人でよく行っていた店だ。
店へ入り、いつもの奥のテーブル席に向かい合って座る。
いつも頼んでいたものを注文する。
早苗が言った。
「なんか不思議」
「何が?」
「毎日一緒にいるのに」
私は少し笑う。
「ああ」
早苗が続ける。
「こういうの久しぶり」
料理が運ばれてくる。
食べながら自然と会話がはずむ。
最近のこと。
女の子たちのこと。
少し先の話。
気付けばいつも通りだった。
店を出ると外は暗くなっていた。
車へ戻りしばらく走る。
ふと早苗が言った。
「覚えてる?」
私は早苗を見る。
「ん?」
「昔もこの辺よく来てた」
私は窓の外を見る。
懐かしい景色。
少し笑った。
「ああ」
車が止まる。
見上げると、昔二人で何度か来たホテルだった。
早苗が小さく笑う。
「久しぶり」
部屋へ入る。
静かな部屋。
ベッドへ座る。
早苗がそっと肩へ寄りかかる。
「なんか安心する」
私は肩を寄せた。
「俺もだ」
早苗が少し笑う。
「最近ずっと忙しかった」
「ああ」
「少し寂しかった」
私は早苗を見る。
早苗もこちらを見ていた。
そっと抱き寄せる。
早苗が力を抜いた。
時間がゆっくり流れる。
昔みたいだった。
少し違った。
昔より。
今の方が落ち着いていた。
どれくらい時間が経っただろう。
早苗が言う。
「戻ろっか」
私は頷いた。
「ああ」
外へ出るとかなり空気が冷え込んでいた。
車へ乗り茉莉花へ向かう。
助手席へ座りながら思った。
久しぶりの時間だった。
けれど。
失っていた訳じゃない。
少し忙しくて。
少し遠くなっていただけだった。

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