140話「クリスマスの隙間」

出発ロビーは、旅行客の笑い声でどこか浮ついた空気が漂っている。

「楽しんできてね」

そう言うと、里奈ちゃんは大きく頷いた。

「お土産、楽しみにしててねー!」

元気よく笑いながら、早苗の腕を軽く引く。

「ちゃんと帰ってくるから」

早苗はそう言って、小さく笑った。

「当たり前だろ」

そう返すと、二人は手を振りながらゲートの方へと歩いていく。

人の流れに紛れて、その姿はすぐに見えなくなった。

しばらくその場に立ったまま、行き交う人を眺める。

——行ったか。

そう思ってから、ゆっくりと背を向けた。

外に出ると、空気は思っていたよりも冷たかった。

車に戻り、エンジンをかける。

クリスマスのプレゼントとして予約や取り置きしていた品を受け取りに、デパートへ向かった。

信号待ちで、外をぼんやりと眺める。

街はクリスマス一色だった。

カップルや、クリスマスのイラストが入った紙袋を下げた人たちが、楽しそうに横断歩道を渡っていく。

その光景を、どこか遠くから見ているような気がした。

品物を受け取り、そのまま茉莉花の事務所へ向かう。

茉莉花のリビングは静まり返り、誰もいない寒々とした空間が広がっていた。

二階に上がり、早苗と私の部屋に入る。

いつものソファーに腰を下ろすと、皮の擦れる音と時計の音だけが部屋に響いた。

部屋には、早苗の匂いだけが残っていた。

いつもいる早苗がいない。

それが、より存在を大きく感じさせた。

携帯を取り出し、弘にメールを打つ。

そのままソファーに背を預け、何を考えるでもなく、ぼんやりと天井を見ていた。

手の中で携帯が小さく震え、弘から返信が届く。

「今から事務所に行く」

短く返し、立ち上がった。

車に乗る前に振り返ると、建物はどこかひっそりと佇んでいるように見えた。

事務所に入ると、弘がすぐに出てきた。

「兄貴、お疲れっす。どうかしたんすか?」

「お前ひとりなのか?」

そう言いながら、事務室として使っている部屋に入る。

「はい、女の子と大介は仕事で出てるっす」

椅子に座り、紙袋からひとつ取り出して机の上に置いた。

「お前にクリスマスプレゼントだ」

「えっ!マジっすか!ヤッター!」

弘は子供みたいにはしゃいだ。

「これは大介。こっちが美咲にだ」

机に並べて、渡しておくように頼む。

「大介と美咲ちゃん、喜ぶっすよ!」

弘は丁寧に紙袋へ戻していた。

ふと、机の上にチケットが二枚置いてあるのに気づく。

手に取ると、“フィリピンクラブMAHAL”クリスマスパーティーチケットと書かれていた。

それを見ていると、弘が口を開く。

「それ、駅でよく会うフィリピンの女の子から買ったんすよ」

小指を立てながら、苦笑いする。

「今年はコレもいないから、大介と行こうと思ったんすけど……あいつ、彼女と過ごすんでとか言いやがるんすよ」

「そうか」

思わず笑うと、弘が少し身を乗り出してきた。

「あっ、25日、女の子の出勤も少ないし、店は朝方五時まで開いてるから……兄貴、一緒に行かないっすか?」

「フィリピンクラブか……行ったことないな」

「早苗姐さんも旅行でいないし、行きましょうよ!」

こんなふうに誘ってくるのは珍しい。

その奥にある寂しさが、なんとなく分かった。

「それじゃ、行ってみるか。美緒が一緒でもいいか?」

「もちろんっすよ!それじゃ三人でクリスマスパーティーっすね!」

「ああ。それから明日、夕方前に差し入れ持ってくるからな。飯は食うなよ」

そのとき店の電話が鳴り、弘は受話器を取りながらガッツポーズをして部屋を出ていった。

ポケットから携帯を取り出し、美緒に連絡を入れる。

しばらくして、返信が来た。

「今、家にいます」

「今から行く」

そう打ち返して、立ち上がる。

外に出ると、空気はさっきよりも少しだけ冷えていた。

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