アクセサリーを眺めながら話しているうちに、ミッシェルがカフェオレを淹れてくれた。
私とリトはダイニングテーブルに座り、湯気の立つカップを手に取る。
「ありがとう」
「どういたしましテ」
ミッシェルは笑顔で答えた。
私は一口飲んだ。
苦味の中にほんのり甘さがあって飲みやすい。
「美味しいな」
「ほんとニ?」
ミッシェルは嬉しそうに笑った。
その横でリトが改めて部屋を見回す。
「しかし、いいアパートだネ」
ダイニングテーブル。
エアコン。
綺麗な家具。
どれを見ても快適そうだ。
「私もちょっと驚いたよ」
そう言うとリトが頷く。
「MAHALの寮とは全然違うネ」
ミッシェルは不思議そうな顔をした。
「そうなノ?」
「ウン」
リトは苦笑する。
「ここはかなり恵まれてる方だと思うヨ」
ミッシェルは少し考えるような顔をしたが、すぐに肩をすくめた。
どうやら本人にとっては当たり前の環境らしい。
リトはコーヒーを一口飲むと、ふと思い出したように聞いた。
「そういえば黒木ってノルマどれくらいあるノ?」
「ノルマ?」
ミッシェルは首を傾げる。
「同伴とかドリンクとかネ」
するとミッシェルはあっさり答えた。
「ないヨ」
「え?」
リトが思わず聞き返した。
「ないの?」
「ウン」
ミッシェルは頷く。
「黒木はノルマないヨ」
私はリトと顔を見合わせた。
リトも少し驚いている。
「それは珍しいネ」
「そう?」
ミッシェルは当然のように言った。
「ママは仕事には厳しいヨ」
そして少し真面目な表情になる。
「でもちゃんと頑張ってるタレントには優しいネ」
私は黙って続きを聞いた。
「給料も上げてくれるし、困ったことあったら話も聞いてくれるヨ」
「へぇ」
リトは感心したように頷く。
「ちゃんとタレントのこと考えてるんだネ」
「ウン」
ミッシェルは笑った。
「ママいい人だヨ」
リトは腕を組みながら少し考える。
そして納得したように頷いた。
「だからみんな長く働くんだネ」
「そうだヨ」
ミッシェルは嬉しそうに笑った。
「黒木はアルバイトもたくさんいるネ」
「アルバイト?」
私は聞き返した。
「ウン」
ミッシェルは頷く。
「お客さんと恋人になって結婚して、日本に来た人もいるヨ」
「へぇ」
「でもママ好きだから、今もアルバイトで働いてるネ」
私は思わず感心した。
タレントではなくアルバイトになっても、黒木を選び店に残るというのは、それだけ居心地が良いのだろう。
「それはすごいな」
私が言うとミッシェルは笑った。
「みんな仲良いヨ」
そして窓の外を指差す。
「屋上もあるネ」
「屋上?」
「ウン」
ミッシェルは頷いた。
「たまにアルバイトの子も来て、みんなでバーベキューするヨ」
「楽しそうだな」
「楽しいヨ」
ミッシェルは即答した。
その表情を見れば本当なのが分かる。
私はコーヒーを飲みながら部屋を見回した。
広いアパート。
充実した設備。
仲の良いタレントたち。
そして面倒見の良いママ。
今日だけでも黒木という店の印象はずいぶん変わった気がする。
「だからネ」
ミッシェルが笑顔で言った。
「みんな黒木辞めないヨ」
私は小さく頷いた。
その理由が、少し分かった気がした。

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