205話「カレンデリア」

販売が終わる頃には。

美緒は、すっかりタレントたちと打ち解けていた。

「また来てネ!」

「次も来てヨ!」

そんな声が飛ぶ。

美緒は笑顔で名刺を配っていた。

「何かあったら連絡してくださいね」

英語も交えながら笑顔で答えている。

その姿を見ながら、本当に慣れたなと思った。

私たちは部屋を出る。

車へ乗り込み街を離れた。

帰り道。

リトが後部座席から顔を近づけて聞く。

「ナオトとミオは、フィリピン料理食べた事ある?」

私と美緒は顔を見合わせた。

「フィリピン料理はないなぁ」

「私もないかな」

そう答えると、リトが笑う。

「それじゃ今から行かない? お腹空いたヨ!」

時計を見ると、もう遅い時間だった。

だけど、せっかくなら行ってみたい。

「行こうか」

美緒も頷いた。

しばらく車を走らせる。

着いたのは飲み屋街の中にある小さな店だった。

店の扉には[Carinderia]と書かれていた。

「カレンデリアだヨ。フィリピンの食堂みたいな意味ネ」

リトが言う。

「フィリピン人のタレントとか、アフターの人よく来るヨ。朝までやってる」

私たちは店へ入った。

扉を開けた瞬間。

今まで嗅いだ事のない匂いが広がる。

スパイスなのか。

南国の料理だからなのか。

だけど嫌な匂いじゃなかった。

むしろ、お腹が空く匂いだった。

店の中は夜中なのに賑わっていた。

タレントたちやアフターで来ている客。

色んな言葉が飛び交っている。

私は少し周りを見る。

なんだか別の国みたいだった。

席へ座る。

私も美緒も何を頼めばいいのか分からずメニューを見ていると。

「ナオトとミオ初めてだから、私に注文任せテ」

リトが慣れた様子で注文を始めた。

厨房ではフィリピン人の男性が料理をしている。

リトとタガログ語で親しそうに話していた。

その時。

別の席から声が飛ぶ。

「リト!」

振り向くと。

タレントらしい女性が手を振っていた。

「久しぶりネ!」

リトは笑いながら少し話したあと。

私たちを紹介した。

「アクセサリーのビジネスやってるナオトとミオ」

私は軽く頭を下げる。

美緒は英語で挨拶し、リトもフォローするように話していた。

女性は興味津々で話を聞いていた。

本当にどこへ行っても知り合いがいるなと思った。

しばらくすると料理が運ばれてくる。

チキンアドボ。

エビのシニガンスープ。

ガーリックライス。

そしてマンゴージュース。

私は美緒と顔を見合わせた。

「美味しそう」

まずアドボを口へ運ぶ。

想像していた味とは違った。

少し酸味があるが、それが美味しい。

「美味しいな」

そう言うと。

美緒も頷いた。

「フィリピン料理って美味しいね」

シニガンスープも飲む。

柑橘系の酸味が効いていて初めて飲む味だった。

だけどサッパリとして美味しい。

ガーリックライスも進む。

そして。

一番驚いたのはマンゴージュースだった。

濃厚でジュースというより、シェイクみたいだった。

「これ美味しい」

美緒が笑う。

気付けば。

私も美緒も、おかわりしていた。

「気に入ったネ」

リトが嬉しそうに笑う。

初めて食べるフィリピン料理。

だけど不思議と居心地が良かった。

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