販売が終わる頃には。
美緒は、すっかりタレントたちと打ち解けていた。
「また来てネ!」
「次も来てヨ!」
そんな声が飛ぶ。
美緒は笑顔で名刺を配っていた。
「何かあったら連絡してくださいね」
英語も交えながら笑顔で答えている。
その姿を見ながら、本当に慣れたなと思った。
私たちは部屋を出る。
車へ乗り込み街を離れた。
帰り道。
リトが後部座席から顔を近づけて聞く。
「ナオトとミオは、フィリピン料理食べた事ある?」
私と美緒は顔を見合わせた。
「フィリピン料理はないなぁ」
「私もないかな」
そう答えると、リトが笑う。
「それじゃ今から行かない? お腹空いたヨ!」
時計を見ると、もう遅い時間だった。
だけど、せっかくなら行ってみたい。
「行こうか」
美緒も頷いた。
しばらく車を走らせる。
着いたのは飲み屋街の中にある小さな店だった。
店の扉には[Carinderia]と書かれていた。
「カレンデリアだヨ。フィリピンの食堂みたいな意味ネ」
リトが言う。
「フィリピン人のタレントとか、アフターの人よく来るヨ。朝までやってる」
私たちは店へ入った。
扉を開けた瞬間。
今まで嗅いだ事のない匂いが広がる。
スパイスなのか。
南国の料理だからなのか。
だけど嫌な匂いじゃなかった。
むしろ、お腹が空く匂いだった。
店の中は夜中なのに賑わっていた。
タレントたちやアフターで来ている客。
色んな言葉が飛び交っている。
私は少し周りを見る。
なんだか別の国みたいだった。
席へ座る。
私も美緒も何を頼めばいいのか分からずメニューを見ていると。
「ナオトとミオ初めてだから、私に注文任せテ」
リトが慣れた様子で注文を始めた。
厨房ではフィリピン人の男性が料理をしている。
リトとタガログ語で親しそうに話していた。
その時。
別の席から声が飛ぶ。
「リト!」
振り向くと。
タレントらしい女性が手を振っていた。
「久しぶりネ!」
リトは笑いながら少し話したあと。
私たちを紹介した。
「アクセサリーのビジネスやってるナオトとミオ」
私は軽く頭を下げる。
美緒は英語で挨拶し、リトもフォローするように話していた。
女性は興味津々で話を聞いていた。
本当にどこへ行っても知り合いがいるなと思った。
しばらくすると料理が運ばれてくる。
チキンアドボ。
エビのシニガンスープ。
ガーリックライス。
そしてマンゴージュース。
私は美緒と顔を見合わせた。
「美味しそう」
まずアドボを口へ運ぶ。
想像していた味とは違った。
少し酸味があるが、それが美味しい。
「美味しいな」
そう言うと。
美緒も頷いた。
「フィリピン料理って美味しいね」
シニガンスープも飲む。
柑橘系の酸味が効いていて初めて飲む味だった。
だけどサッパリとして美味しい。
ガーリックライスも進む。
そして。
一番驚いたのはマンゴージュースだった。
濃厚でジュースというより、シェイクみたいだった。
「これ美味しい」
美緒が笑う。
気付けば。
私も美緒も、おかわりしていた。
「気に入ったネ」
リトが嬉しそうに笑う。
初めて食べるフィリピン料理。
だけど不思議と居心地が良かった。

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