販売が落ち着いた頃には、テーブルの上のアクセサリーケースもかなり軽くなっていた。
「また、アクセサリー見たいとか何か問題あったら連絡してね」
美緒がLINK CORPORATIONの名刺をタレントたちに手渡しながら言う。
リトは書類を確認しながら契約書をまとめていく。
タレントたちは、買ったばかりのアクセサリーを首元に当てながら楽しそうに笑っていた。
「アリガト!」
「マタ来テネ!」
そんな声を背中に受けながら、私たちは部屋を後にした。
外へ出ると、夜の空気は冷えていた。
そのまま三人で近くのファミレスへ向かう。
店内は深夜でも明るく、さっきまでの熱気が少しずつ静かに落ち着いていく。
ドリンクバーを持って席へ戻ると、テーブルの上に契約書と売上金を広げた。
「じゃあ確認するね」
美緒は慣れた手つきで契約書を並べていく。
名前。
支払い回数。
在留資格カードの控え。
連絡先。
書類に不備がないか、一枚ずつ丁寧に確認していた。
私は売上金を数えながら、小さく息をつく。
思っていた以上に動いていた。
昨日までケースの中に入っていたアクセサリーが、もう現金へ変わっている。
一晩でここまで金が動くとは、正直まだ実感が追いついていなかった。
その感覚が、まだ少し不思議だった。
「今日かなり良かったヨ」
リトはコーラを飲みながら笑う。
「MAHALの系列店、まだ三店舗あるネ」
「そんなにあるんだ」
「ウン。MAHALグループのタレントはみんな知ってるヨ。多分、次も売れるネ」
リトはそう言うと、少し楽しそうに続けた。
「MAHALグループ以外の店も、ママ知ってるヨ。今度三人で飲みに行って、アクセサリーの話してみるネ」
その言葉に、美緒が静かに頷く。
「広げるなら、今の流れがいいかもね」
私は少し考えながら、テーブルの上の契約書を見た。
今日だけでも、十分すぎるほど動いていた。
急いで広げすぎる必要はない。
リトの目が届き、把握できるところからだ。
「とりあえずは、MAHALグループから行こう」
そう言うと、リトは笑いながら頷いた。
「OK!それがイイネ」
ファミレスを出る頃には、時計はかなり遅い時間を回っていた。
私たちはそのままリトをマンションまで送り届ける。
車を降りる前、リトはいつもの軽い笑顔で手を振った。
「今日アリガト!次モ頑張ろウ!」
「お疲れ。また連絡するよ」
リトを見送り、車を走らせる。
しばらくすると、美緒が小さく笑った。
「……なんか、本当に仕事って感じだったね」
「うん」
私は前を見たまま頷く。
今日だけで、色んなものが動いていた。
金。
人。
店。
そして、多分、私たち自身も。
美緒のマンションへ戻ると、部屋の中は静かだった。
さっきまで飛び交っていたタガログ語も笑い声も、もう聞こえない。
私はソファへ腰を下ろし、小さく息をつく。
すると美緒が隣へ座り、そのまま静かに身体を寄せてきた。
「疲れた?」
「少しだけ」
そう答えると、美緒は小さく笑う。
「お疲れさま」
その声を聞いた瞬間、張っていた空気が少しだけほどけた気がした。
さっきまで金の話をしていたはずなのに。
今はただ、美緒の温もりだけが近くにあった。

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