インターホンを押すと、すぐにドアが開きリトの陽気な声に迎えられる。
「ハイ!ナオト、ミオ久しぶりネ!」
部屋の中は少し甘い香水とタバコの匂いが混ざっていた。
「リト久しぶり、今日はよろしくね」
私と美緒は部屋へ入り、テーブルの上にアクセサリーケースを置いた。
リトはケースの中を覗き込みながら、小さく笑う。
「オオ……イイネ!タレントの好きなゴールドがいっぱいあるネ」
そのまま三人で軽く流れを確認した。
値段設定。
ローン払いの説明。
支払いの確認方法。
在留資格カードの写真。
そして、無理に売り込まないこと。
美緒は静かに頷きながら、必要な書類をもう一度揃えていく。
その姿には、もう揺るぎはなかった。
しばらくしてリトが立ち上がる。
「じゃあ、行こうカ」
私たちはアクセサリーケースを持ち、タレントたちの部屋へ向かった。
部屋のドアを開けると、中には数人のタレントたちが集まっていた。
メイの姿もある。
「あっ!」
メイは美緒を見ると、すぐに笑顔になった。
「ヒサシブリ!」
「久しぶり」
美緒も自然に笑い返す。
その空気のおかげか、部屋の緊張は最初からあまりなかった。
私たちはテーブルの上にアクセサリーケースを広げる。
ネックレス。
ブレスレット。
リング。
ライトの下でアクセサリーが小さく光った瞬間――
「ワオ!」
「オオ〜!」
タレントたちの声が一気に上がる。
みんな目を輝かせながら、次々とアクセサリーを手に取っていく。
「コレ、カワイイ!」
「コッチモイイ!」
笑い声とタガログ語と英語が、狭い部屋の中で混ざり始める。
リトは少し後ろに下がりながら、タレントたちへタガログ語で説明を入れていた。
支払い方法。
ローンの内容。
月々の金額。
タレントたちは真剣に聞きながらも、表情は明るい。
その横で、美緒は飛んでくる質問へ流れるように答えていた。
「ディスカウントある?」
「あるよ」
「現金払いなら、もう少しディスカウントするよ」
「これはいくら?」
「こっちは――」
美緒はアクセサリーを手に取りながら、迷いなく英語で説明していく。
その姿は、普段部屋で見せる柔らかい空気とはまるで違っていた。
完全に仕事の顔だった。
あるタレントがネックレスを持ちながら聞く。
「写真撮ってイイ?お客さんに見せたい」
「大丈夫。でも取り置きするなら先に言ってね」
美緒は笑いながら返した。
「OK!」
タレントはすぐに携帯を取り出し、アクセサリーの写真を撮り始める。
部屋の空気は、思っていた以上に明るかった。
私は少し離れた場所から、その光景を静かに見ていた。
最初は様子を見ていたタレントたちも、手数料がかからないと分かると、一気に表情が変わる。
「ホント?」
「ローンOK?」
「手数料ナイ?」
リトがタガログ語で説明すると、みんな驚いたように笑った。
その反応を見ながら、美緒は契約内容をひとつずつ確認していく。
ローン払いを選ぶタレントがほとんどだった。
だが、中にはその場で現金を出すタレントもいた。
テーブルの上で現金が動き、契約書が並び、アクセサリーが手渡されていく。
部屋の中の熱気は、もう最初とは少し違っていた。
その光景を見ながら、私は静かに思った。
昨日までテーブルの上に置かれていただけのものが、今こうして金に変わっている。
そして同時に、人の流れも少しずつ変わり始めていた。

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