169話「静かな取引」

昼過ぎ、私は「時のかけら」に向かった。

駅から少し歩いた先に、その店はあった。

小さな店で、知らなければ通り過ぎてしまうような佇まい。

中に入ると、空気が変わる。

アンティーク商品やリサイクル品が所狭しと並んでいた。

古い時計、銀食器、雑貨、アクセサリー。

どれも時間を一度くぐったような顔をしている。

この店は、商品を売る場所というより、何かを“探す場所”のようにも思えた。

「いらっしゃい」

奥から出てきた店主は、いかにもアンティーク店の店主という雰囲気だった。

ニット帽にメガネ、少し色あせたニットのベスト。

必要以上に語らない、その静けさが店に馴染んでいる。

あとで知ることになるが、この店主と高梨社長は古くからの友人らしい。

そしてここ「時のかけら」は、ただの店ではなく、彼らの取引の場としても使われているのだと分かるのは、もう少し後のことだった。

「こちらへどうぞ」

案内されたのは、応接室のような小さな部屋だった。

外の喧騒が遠のく。

テーブルにはすぐにコーヒーが置かれた。

店主が淹れてくれたものだった。

しばらくして、高梨社長が入ってきた。

「お待たせしました」

いつもの落ち着いた声。

軽く挨拶を交わし、私は本題に入った。

「フィリピン人向けに使うアクセサリーを探しています」

少しだけ間を置く。

「ゴールド系を中心にしたものが欲しいです」

高梨社長は静かに頷いた。

そしてテーブルの横に置かれた大きな鞄に手を伸ばす。

次の瞬間、大きなトランクケースがテーブルに置かれた。

金具が外れ、中が開く。

そこに並んでいたのは、煌びやかなアクセサリーだった。

ネックレス、ブレスレット、指輪、アンクレット。

まるで店頭に並ぶ前から、売れることが決まっているような商品たちだった。

高梨社長はそれを淡々と並べていく。

「これはこの価格帯でいけます」

「これは需要があります」

説明は簡潔だった。

価格は商品ごとに違うが、元の値札から四割から六割引きだった。

私は一つずつ手に取りながら相談していく。

「これはまとめていけそうですね」

「こっちは少し強いかもしれません」

選ぶたびに、“仕事”が形になっていく。

やがて高梨社長は、トランクの中から別のケースを取り出した。

「これは今回、試しに持っていってください」

「売れなかったら返してもらえれば大丈夫です」

そう言って、いくつかの商品を追加する。

そして静かに続けた。

「貸し出し扱いにしておきます」

私の買い取った物と、貸し出された品物を合わせれば、商売するのに十分な品揃えだった。

その場で、買取の領収書とは別に、貸出の伝票が書かれていく。

紙の音だけが、部屋に落ちていった。

私はそれを見ながら、少しだけ息を飲んだ。

これはもう、ただの仕入れではなかった。

“信用”が形になっている。

そしてその貸し出しが成立した背景には、恵美という存在があるのだと、どこかで理解していた。

時のかけらは、ただの店ではない。

ここは、彼らの“取引が成立する場所”なのだ。

そしてその空気の中で交わされた約束は、静かに確かな重さを持っていた。

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