昼過ぎ、私は「時のかけら」に向かった。
駅から少し歩いた先に、その店はあった。
小さな店で、知らなければ通り過ぎてしまうような佇まい。
中に入ると、空気が変わる。
アンティーク商品やリサイクル品が所狭しと並んでいた。
古い時計、銀食器、雑貨、アクセサリー。
どれも時間を一度くぐったような顔をしている。
この店は、商品を売る場所というより、何かを“探す場所”のようにも思えた。
「いらっしゃい」
奥から出てきた店主は、いかにもアンティーク店の店主という雰囲気だった。
ニット帽にメガネ、少し色あせたニットのベスト。
必要以上に語らない、その静けさが店に馴染んでいる。
あとで知ることになるが、この店主と高梨社長は古くからの友人らしい。
そしてここ「時のかけら」は、ただの店ではなく、彼らの取引の場としても使われているのだと分かるのは、もう少し後のことだった。
「こちらへどうぞ」
案内されたのは、応接室のような小さな部屋だった。
外の喧騒が遠のく。
テーブルにはすぐにコーヒーが置かれた。
店主が淹れてくれたものだった。
しばらくして、高梨社長が入ってきた。
「お待たせしました」
いつもの落ち着いた声。
軽く挨拶を交わし、私は本題に入った。
「フィリピン人向けに使うアクセサリーを探しています」
少しだけ間を置く。
「ゴールド系を中心にしたものが欲しいです」
高梨社長は静かに頷いた。
そしてテーブルの横に置かれた大きな鞄に手を伸ばす。
次の瞬間、大きなトランクケースがテーブルに置かれた。
金具が外れ、中が開く。
そこに並んでいたのは、煌びやかなアクセサリーだった。
ネックレス、ブレスレット、指輪、アンクレット。
まるで店頭に並ぶ前から、売れることが決まっているような商品たちだった。
高梨社長はそれを淡々と並べていく。
「これはこの価格帯でいけます」
「これは需要があります」
説明は簡潔だった。
価格は商品ごとに違うが、元の値札から四割から六割引きだった。
私は一つずつ手に取りながら相談していく。
「これはまとめていけそうですね」
「こっちは少し強いかもしれません」
選ぶたびに、“仕事”が形になっていく。
やがて高梨社長は、トランクの中から別のケースを取り出した。
「これは今回、試しに持っていってください」
「売れなかったら返してもらえれば大丈夫です」
そう言って、いくつかの商品を追加する。
そして静かに続けた。
「貸し出し扱いにしておきます」
私の買い取った物と、貸し出された品物を合わせれば、商売するのに十分な品揃えだった。
その場で、買取の領収書とは別に、貸出の伝票が書かれていく。
紙の音だけが、部屋に落ちていった。
私はそれを見ながら、少しだけ息を飲んだ。
これはもう、ただの仕入れではなかった。
“信用”が形になっている。
そしてその貸し出しが成立した背景には、恵美という存在があるのだと、どこかで理解していた。
時のかけらは、ただの店ではない。
ここは、彼らの“取引が成立する場所”なのだ。
そしてその空気の中で交わされた約束は、静かに確かな重さを持っていた。

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