空港を出ると、外の空気は思ったより冷たかった。
「寒っ」
里奈ちゃんが肩をすくめながら言う。
「韓国の方が寒かったんじゃない、雪降ってたし」
早苗が少し笑いながら返す。
「いや、なんか違うの。こっちの寒さの方が刺さる感じ」
そんな他愛のないやり取りをしながら、三人で歩く。
旅行帰りの少し浮ついた空気と、いつもの日常が混ざっていた。
事務所に戻る頃には、その感覚も少し落ち着いていた。
「ちょっと、部屋来て」
中に入るなり、早苗がそう言った。
「どうした?」
「いいから」
軽く腕を引かれ、そのまま二人の部屋に入る。
後ろから里奈ちゃんが「なになにー?」とついてこようとして、
「いいからあんたは向こう行ってて」
と早苗に押し戻されていた。
ドアが閉まる。
少しだけ、空気が静かになる。
「はい、これ」
ベッドの上に置いてあった紙袋を手に取り、差し出した。
「クリスマスプレゼント」
差し出されたそれを受け取る。
中を覗くと、シンプルなバッグが入っていた。
「仕事でも使えるし、どこでも持っていけるやつにしたんだよ」
「いいな、これ」
「でしょ?」
早苗が軽く笑う。
昔からこういうセンスは変わらない。
「ありがとな」
「ちゃんと使ってよ」
「使うよ」
そんなやり取りも、どこか自然だった。
「これ、俺から」
バッグから箱を取り出し、早苗に手渡した。
早苗が一瞬だけ目を丸くする。
「えっ……開けていい?」
「ああ」
早苗はゆっくり箱を開ける。
「……可愛い、これ」
早苗は少しの間、それを見つめていた。
「茉莉花をモチーフにしたピアスなんだ」
「ありがと」
その言い方が、思っていたより柔らかかった。
早苗はピアスを耳に当ててみせる。
「どう?」
「似合ってるよ」
そう言うと、早苗は嬉しそうに頷いた。
ソファーに腰を下ろすと、早苗も隣に座った。
「ねぇ、クリスマスは何してたの?」
「ああ、いつもと変わらないよ。
あっ、弘とちょっと飲みに出たくらいかな」
「事務所に寝泊まりしてたの?」
早苗はベッドを見ながら言った。
「ああ、仕事終わったら、そのまま寝てしまったりしてな」
「だからか、旅行行く前と変わってないから」
「あっ、そうだ。里奈ちゃんと綾さんにもプレゼント買ってたんだ」
咄嗟に口に出た。
「えっ、里奈と綾さんにも。
ありがとうね。二人とも喜ぶよ、特に里奈がね」
早苗は少し笑った。
「早苗ー!このケーキ食べていいの?」
一階から、里奈ちゃんの大きな声が聞こえた。
「ケーキ?」
「空港に行く前に買って、冷蔵庫に入れておいたんだ」
「えっ!ほんとに?嬉しい!」
早苗が抱きついてきた。
「ねえ、聞こえてた?」
ドアが勢いよく開き、里奈ちゃんが入ってきた。
「あらら、なにラブシーンしてんのよ」
里奈ちゃんが茶化すようにニヤニヤする。
早苗は抱きついたまま振り返り、ベーッと舌を出した。
「ねえ、早くケーキ食べようよ」
里奈ちゃんが子供のように言う。
「分かったわよ」
早苗は抱きついていた腕をほどいた。
「コーヒー淹れるから、あなたも一緒に食べよう」
そう言いながら、里奈ちゃんと階段を降りていった。
早苗が部屋を出たあと、少ししてクローゼットを開ける。
いくつかの服に手を伸ばした。
「コーヒー淹れたよ」
後ろから早苗の声がした。
「どうしたの?」
「ちょっと、事務所に置いておこうと思ってさ」
下着や靴下、適当にいくつか手に取る。
「泊まるの?」
「ああ、まあ」
曖昧に返す。
一瞬だけ間が空く。
「早苗が旅行に行ってるとき、弘と一緒に寝泊まりしてたんだよ。朝早いときや、急な予定が入ったらすぐに動けるだろ。
それに弘のやつ、俺がいたら嬉しそうなんだよ」
言葉は自然に出た。
早苗は少しだけ考えるような顔をして、
「あなた、最近忙しそうだもんね。
弘くんも、やっぱりひとりじゃ寂しいんだろうね」
「うん、そうみたいだ」
とだけ返した。
「泊まるときは連絡してね。心配だから」
それ以上は何も聞かなかった。
私は早苗の顔を見ずに、淡々と着替えなどを紙袋に入れた。
顔を見ると、すべてが見透かされそうな気がした。

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