148話「温もりのあとで」

空港を出ると、外の空気は思ったより冷たかった。

「寒っ」

里奈ちゃんが肩をすくめながら言う。

「韓国の方が寒かったんじゃない、雪降ってたし」

早苗が少し笑いながら返す。

「いや、なんか違うの。こっちの寒さの方が刺さる感じ」

そんな他愛のないやり取りをしながら、三人で歩く。

旅行帰りの少し浮ついた空気と、いつもの日常が混ざっていた。

事務所に戻る頃には、その感覚も少し落ち着いていた。

「ちょっと、部屋来て」

中に入るなり、早苗がそう言った。

「どうした?」

「いいから」

軽く腕を引かれ、そのまま二人の部屋に入る。

後ろから里奈ちゃんが「なになにー?」とついてこようとして、

「いいからあんたは向こう行ってて」

と早苗に押し戻されていた。

ドアが閉まる。

少しだけ、空気が静かになる。

「はい、これ」

ベッドの上に置いてあった紙袋を手に取り、差し出した。

「クリスマスプレゼント」

差し出されたそれを受け取る。

中を覗くと、シンプルなバッグが入っていた。

「仕事でも使えるし、どこでも持っていけるやつにしたんだよ」

「いいな、これ」

「でしょ?」

早苗が軽く笑う。

昔からこういうセンスは変わらない。

「ありがとな」

「ちゃんと使ってよ」

「使うよ」

そんなやり取りも、どこか自然だった。

「これ、俺から」

バッグから箱を取り出し、早苗に手渡した。

早苗が一瞬だけ目を丸くする。

「えっ……開けていい?」

「ああ」

早苗はゆっくり箱を開ける。

「……可愛い、これ」

早苗は少しの間、それを見つめていた。

「茉莉花をモチーフにしたピアスなんだ」

「ありがと」

その言い方が、思っていたより柔らかかった。

早苗はピアスを耳に当ててみせる。

「どう?」

「似合ってるよ」

そう言うと、早苗は嬉しそうに頷いた。

ソファーに腰を下ろすと、早苗も隣に座った。

「ねぇ、クリスマスは何してたの?」

「ああ、いつもと変わらないよ。

あっ、弘とちょっと飲みに出たくらいかな」

「事務所に寝泊まりしてたの?」

早苗はベッドを見ながら言った。

「ああ、仕事終わったら、そのまま寝てしまったりしてな」

「だからか、旅行行く前と変わってないから」

「あっ、そうだ。里奈ちゃんと綾さんにもプレゼント買ってたんだ」

咄嗟に口に出た。

「えっ、里奈と綾さんにも。

ありがとうね。二人とも喜ぶよ、特に里奈がね」

早苗は少し笑った。

「早苗ー!このケーキ食べていいの?」

一階から、里奈ちゃんの大きな声が聞こえた。

「ケーキ?」

「空港に行く前に買って、冷蔵庫に入れておいたんだ」

「えっ!ほんとに?嬉しい!」

早苗が抱きついてきた。

「ねえ、聞こえてた?」

ドアが勢いよく開き、里奈ちゃんが入ってきた。

「あらら、なにラブシーンしてんのよ」

里奈ちゃんが茶化すようにニヤニヤする。

早苗は抱きついたまま振り返り、ベーッと舌を出した。

「ねえ、早くケーキ食べようよ」

里奈ちゃんが子供のように言う。

「分かったわよ」

早苗は抱きついていた腕をほどいた。

「コーヒー淹れるから、あなたも一緒に食べよう」

そう言いながら、里奈ちゃんと階段を降りていった。

早苗が部屋を出たあと、少ししてクローゼットを開ける。

いくつかの服に手を伸ばした。

「コーヒー淹れたよ」

後ろから早苗の声がした。

「どうしたの?」

「ちょっと、事務所に置いておこうと思ってさ」

下着や靴下、適当にいくつか手に取る。

「泊まるの?」

「ああ、まあ」

曖昧に返す。

一瞬だけ間が空く。

「早苗が旅行に行ってるとき、弘と一緒に寝泊まりしてたんだよ。朝早いときや、急な予定が入ったらすぐに動けるだろ。

それに弘のやつ、俺がいたら嬉しそうなんだよ」

言葉は自然に出た。

早苗は少しだけ考えるような顔をして、

「あなた、最近忙しそうだもんね。

弘くんも、やっぱりひとりじゃ寂しいんだろうね」

「うん、そうみたいだ」

とだけ返した。

「泊まるときは連絡してね。心配だから」

それ以上は何も聞かなかった。

私は早苗の顔を見ずに、淡々と着替えなどを紙袋に入れた。

顔を見ると、すべてが見透かされそうな気がした。

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