目を覚ましたとき、部屋はまだ暗く、間接照明の光だけが淡く揺れていた。
美緒は私の腕の中にいた。
少しだけ体を動かすと、美緒がわずかに身じろぎをする。
「……起きてますか?」
小さな声がした。
「ああ」
短く返すと、美緒は少しだけ安心したように微笑んだ。
「なんだか、まだ夢みたいです」
そう言って、布団の中で距離を詰めてくる。
ふと、窓の外に目を向ける。
遠くに、点滅していたツリーの光は消えていた。
「……クリスマスツリー、好きなんだよな」
ぽつりと、そう言った。
美緒は少しだけ顔を上げる。
「そうなんですか?」
「ああ。なんか、いいだろ」
うまく言葉にできなくて、それだけ答える。
少しの沈黙のあと、美緒が小さく笑った。
「見に行きたいです」
その言葉は、思っていたよりもまっすぐだった。
少しだけ間を置いて、頷く。
「じゃあ、今日の夜、行くか」
「はい」
嬉しそうに返事をして、美緒はそっと抱きついてきた。
窓の外に朝が近づいている気配がしたが、今日はどこにも行かなくていい朝だった。
いつの間にか目を開けていた美緒が、少しだけ眠たそうにこちらを見ていた。
私は何も言わずに腕の中にいる美緒を、そっと抱きしめた。
ただ、その温もりが心地よかった。
目が覚めたのは昼過ぎだった。
カーテンの隙間から差し込む光が、部屋の中をやわらかく照らしている。
隣を見ると、美緒はもう起きていた。
ベッドの端に座って、何かを考えるように指先を見つめている。
「起きた?」
「ああ」
まだ少しだけ重たい体を起こすと、美緒はどこか落ち着かない様子でこちらを見た。
「……あの、実は」
言いかけて、少しだけ言葉を飲み込む。
「プレゼント、用意してたんですけど……間に合わなくて」
少し申し訳なさそうに笑った。
「今日の午前中に届いてて」
その言い方が、どこか照れているようで、らしかった。
「だから……あとで、渡してもいいですか?」
「いつでもいいよ」
そう答えると、美緒は小さく頷いた。
美緒は、指先をいじるように視線を落とした。
「……夜、行くんですよね」
「ああ。ツリー」
「楽しみです」
その一言がやけにまっすぐで、思わず少しだけ笑った。
窓の外はもうすっかり昼の光で満ちていた。
それでも、今日がまだ終わっていないことが、どこか嬉しかった。
外に出ると、空気は思っていたよりも冷たかった。
吐いた息が白くなるのを見て、少しだけ足を止める。
「寒いですね」
隣で美緒が小さく言った。
「ああ。でも、嫌いじゃないな」
そう返すと、美緒は少しだけ笑った。
並んで歩きながら、どちらからともなく距離が近くなる。
街はクリスマスの余韻をまだ残していて、どこか浮ついたような、それでいて少し静かな空気が流れていた。
やがて見えてきたツリーは、思っていたよりも大きくて、光はやわらかく瞬いていた。
「……すごい」
美緒が、ぽつりと呟く。
その横顔を見て、少しだけ立ち止まった。
しばらくの間、二人で何も言わずにその光を見ていた。
「……あの」
美緒が、少しだけ遠慮がちに口を開く。
「プレゼント、いいですか?」
「ああ」
小さく頷くと、美緒はバッグから小さな箱を取り出した。
ほんの少しだけ緊張しているのが伝わってくる。
「遅くなっちゃって、ごめんなさい」
そう言って差し出されたそれを受け取る。
「開けてもいい?」
「はい」
箱を開けると、中にはシンプルなリングがひとつ。
光を受けて、静かに輝いていた。
「……右手の親指に、つけてほしくて」
美緒が、少しだけ視線を落としながら言う。
「寝てるときに……サイズ、測っちゃいました」
その言葉に、思わず小さく笑う。
「そういうことか」
リングを指にはめると、不思議なくらいぴったりと収まった。
「意味とか、あるのか?」
そう聞くと、美緒は一瞬だけ迷ってから、ゆっくりと顔を上げた。
「成功とか、強さとか……あと」
少しだけ言葉を探すように間を置く。
「……お守り、みたいな意味もあるみたいです」
その言い方が、どこか照れくさそうで、それでいて真っ直ぐだった。
もう一度、指に視線を落とす。
冷たい空気の中で、そのリングだけがやけに温かく感じた。
「……ありがとう」
そう言うと、美緒はほっとしたように笑った。
ツリーの光が、静かに瞬いている。
その下で、並んで立っているだけでよかった。
言葉にしなくても、伝わるものがある気がした。
ツリーの光が、ゆっくりと揺れている。
歩き出したとき、不意に腕に触れる感触があった。
そのまま、そっと絡められる。
少しだけ驚いたけど、何も言わなかった。
隣にいる美緒の気配が、やけに近く感じた。
言葉にしなくてもいいと思えたのは、たぶん初めてだった。
そっと、右手に視線を落とす。
そこにある小さな光が、静かに残り続けていた。

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