142話「小さな光」

目を覚ましたとき、部屋はまだ暗く、間接照明の光だけが淡く揺れていた。

美緒は私の腕の中にいた。

少しだけ体を動かすと、美緒がわずかに身じろぎをする。

「……起きてますか?」

小さな声がした。

「ああ」

短く返すと、美緒は少しだけ安心したように微笑んだ。

「なんだか、まだ夢みたいです」

そう言って、布団の中で距離を詰めてくる。

ふと、窓の外に目を向ける。

遠くに、点滅していたツリーの光は消えていた。

「……クリスマスツリー、好きなんだよな」

ぽつりと、そう言った。

美緒は少しだけ顔を上げる。

「そうなんですか?」

「ああ。なんか、いいだろ」

うまく言葉にできなくて、それだけ答える。

少しの沈黙のあと、美緒が小さく笑った。

「見に行きたいです」

その言葉は、思っていたよりもまっすぐだった。

少しだけ間を置いて、頷く。

「じゃあ、今日の夜、行くか」

「はい」

嬉しそうに返事をして、美緒はそっと抱きついてきた。

窓の外に朝が近づいている気配がしたが、今日はどこにも行かなくていい朝だった。

いつの間にか目を開けていた美緒が、少しだけ眠たそうにこちらを見ていた。

私は何も言わずに腕の中にいる美緒を、そっと抱きしめた。

ただ、その温もりが心地よかった。

目が覚めたのは昼過ぎだった。

カーテンの隙間から差し込む光が、部屋の中をやわらかく照らしている。

隣を見ると、美緒はもう起きていた。

ベッドの端に座って、何かを考えるように指先を見つめている。

「起きた?」

「ああ」

まだ少しだけ重たい体を起こすと、美緒はどこか落ち着かない様子でこちらを見た。

「……あの、実は」

言いかけて、少しだけ言葉を飲み込む。

「プレゼント、用意してたんですけど……間に合わなくて」

少し申し訳なさそうに笑った。

「今日の午前中に届いてて」

その言い方が、どこか照れているようで、らしかった。

「だから……あとで、渡してもいいですか?」

「いつでもいいよ」

そう答えると、美緒は小さく頷いた。

美緒は、指先をいじるように視線を落とした。

「……夜、行くんですよね」

「ああ。ツリー」

「楽しみです」

その一言がやけにまっすぐで、思わず少しだけ笑った。

窓の外はもうすっかり昼の光で満ちていた。

それでも、今日がまだ終わっていないことが、どこか嬉しかった。

外に出ると、空気は思っていたよりも冷たかった。

吐いた息が白くなるのを見て、少しだけ足を止める。

「寒いですね」

隣で美緒が小さく言った。

「ああ。でも、嫌いじゃないな」

そう返すと、美緒は少しだけ笑った。

並んで歩きながら、どちらからともなく距離が近くなる。

街はクリスマスの余韻をまだ残していて、どこか浮ついたような、それでいて少し静かな空気が流れていた。

やがて見えてきたツリーは、思っていたよりも大きくて、光はやわらかく瞬いていた。

「……すごい」

美緒が、ぽつりと呟く。

その横顔を見て、少しだけ立ち止まった。

しばらくの間、二人で何も言わずにその光を見ていた。

「……あの」

美緒が、少しだけ遠慮がちに口を開く。

「プレゼント、いいですか?」

「ああ」

小さく頷くと、美緒はバッグから小さな箱を取り出した。

ほんの少しだけ緊張しているのが伝わってくる。

「遅くなっちゃって、ごめんなさい」

そう言って差し出されたそれを受け取る。

「開けてもいい?」

「はい」

箱を開けると、中にはシンプルなリングがひとつ。

光を受けて、静かに輝いていた。

「……右手の親指に、つけてほしくて」

美緒が、少しだけ視線を落としながら言う。

「寝てるときに……サイズ、測っちゃいました」

その言葉に、思わず小さく笑う。

「そういうことか」

リングを指にはめると、不思議なくらいぴったりと収まった。

「意味とか、あるのか?」

そう聞くと、美緒は一瞬だけ迷ってから、ゆっくりと顔を上げた。

「成功とか、強さとか……あと」

少しだけ言葉を探すように間を置く。

「……お守り、みたいな意味もあるみたいです」

その言い方が、どこか照れくさそうで、それでいて真っ直ぐだった。

もう一度、指に視線を落とす。

冷たい空気の中で、そのリングだけがやけに温かく感じた。

「……ありがとう」

そう言うと、美緒はほっとしたように笑った。

ツリーの光が、静かに瞬いている。

その下で、並んで立っているだけでよかった。

言葉にしなくても、伝わるものがある気がした。

ツリーの光が、ゆっくりと揺れている。

歩き出したとき、不意に腕に触れる感触があった。

そのまま、そっと絡められる。

少しだけ驚いたけど、何も言わなかった。

隣にいる美緒の気配が、やけに近く感じた。

言葉にしなくてもいいと思えたのは、たぶん初めてだった。

そっと、右手に視線を落とす。

そこにある小さな光が、静かに残り続けていた。

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