次の日、恵美に連絡した。
「どうしたの?」
気怠い声だった。
「寝てた?ちょっと月下美人のことで話があるんだけど」
「わかった。待ってるわ」
恵美のマンションに向かった。
ドアを開けると、いつもの甘い香りがした。
リビングに行くとカーテンは閉じられたままで、薄暗く、恵美の姿はなかった。
寝室に入ると、恵美はベッドで眠っていた。
そっと腰を下ろす。
「ごめん、また寝てしまってたわ」
恵美は目だけ開けて言った。
「午後に来たほうがよかったかな」
「ううん、いつ来ても大丈夫よ」
恵美は首を横に振りながら言い、そのまま私の膝に頭を乗せた。
柔らかい表情で、私を見上げる。
その頭をそっと撫でながら口を開いた。
「月下美人のことなんだけど、来年から風営法が変わるらしくて、届出制になるんだ。
それに合わせて、月下美人も届出を出そうと思ってる」
恵美は目を閉じたまま、静かに聞いていた。
「届出を出すときは、弘の名義にしようと思う。
警察の意図は、店の数を把握することだろうし、安全に営業するなら、そのほうがいいと思う」
しばらくの沈黙のあと、恵美はゆっくり目を開けた。
「月下美人は、あなたに任せてるんだから、あなたの思うようにしていいのよ」
「わかった」
言葉が途切れた。
甘い沈黙の中で、自然と唇が重なった。
――目を覚ますと、もう夕方前だった。
恵美は私の腕に頭を乗せたまま、微かに笑みを浮かべて眠っている。
その寝顔を見つめながら、これから準備することや、早苗の言葉を頭の中で整理していく。
恵美には、もう一軒増やす話は、まだ伝えないでおこうと思った。
起こさないようにそっとベッドを抜け、キッチンへ向かう。
コーヒーを淹れながら、早苗、奈緒、恵美の顔が頭の中で交互に浮かんだ。

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