105話「甘い沈黙」

次の日、恵美に連絡した。

「どうしたの?」

気怠い声だった。

「寝てた?ちょっと月下美人のことで話があるんだけど」

「わかった。待ってるわ」

恵美のマンションに向かった。

ドアを開けると、いつもの甘い香りがした。

リビングに行くとカーテンは閉じられたままで、薄暗く、恵美の姿はなかった。

寝室に入ると、恵美はベッドで眠っていた。

そっと腰を下ろす。

「ごめん、また寝てしまってたわ」

恵美は目だけ開けて言った。

「午後に来たほうがよかったかな」

「ううん、いつ来ても大丈夫よ」

恵美は首を横に振りながら言い、そのまま私の膝に頭を乗せた。

柔らかい表情で、私を見上げる。

その頭をそっと撫でながら口を開いた。

「月下美人のことなんだけど、来年から風営法が変わるらしくて、届出制になるんだ。

それに合わせて、月下美人も届出を出そうと思ってる」

恵美は目を閉じたまま、静かに聞いていた。

「届出を出すときは、弘の名義にしようと思う。

警察の意図は、店の数を把握することだろうし、安全に営業するなら、そのほうがいいと思う」

しばらくの沈黙のあと、恵美はゆっくり目を開けた。

「月下美人は、あなたに任せてるんだから、あなたの思うようにしていいのよ」

「わかった」

言葉が途切れた。

甘い沈黙の中で、自然と唇が重なった。

――目を覚ますと、もう夕方前だった。

恵美は私の腕に頭を乗せたまま、微かに笑みを浮かべて眠っている。

その寝顔を見つめながら、これから準備することや、早苗の言葉を頭の中で整理していく。

恵美には、もう一軒増やす話は、まだ伝えないでおこうと思った。

起こさないようにそっとベッドを抜け、キッチンへ向かう。

コーヒーを淹れながら、早苗、奈緒、恵美の顔が頭の中で交互に浮かんだ。

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