104話「広がる準備」

翌日、弘から連絡が入った。

店の営業時間前の早い時間だった。

「兄貴、警察署行ってきたっす」

少しだけ息が上がっているように聞こえた。

「どうだった?」

「江崎さんが言ってた通りです。来年から届出制になるみたいっす」

弘は確信を得た言い方だった。

「生活安全課の人にも確認したっす。今のうちに準備しておいた方がいいって言ってました」

弘なりに、ちゃんと聞いてきたのが分かった。

「分かった」

それだけで十分だった。

電話を切る。

しばらく、そのまま画面を見ていた。

迷いはなかった。

月下美人を、届出することに決めた。

名義は弘にする。

その方が動きやすい。

それと同時に、もう一店舗出すことも決めた。

流れは来ている。

止める理由はなかった。

その日のうちに、早苗に話をした。

届出のこと。

これからのやり方を変えること。

そして、もう一店舗出すつもりでいること。

早苗は黙って聞いていた。

途中で一度も口を挟まなかった。

話し終えると、少しだけ間が空いた。

「もう一店舗出すなら…」

早苗が口を開く。

「私がやる」

迷いのない声だった。

私は早苗を見る。

「早苗が?」

早苗は小さく頷いた。

「うん。あなたと仕事できるから」

それだけ言って、少しだけ視線を落とした。

「それと……」

もう一度、顔を上げる。

「届出も、私の名前で出した方がいいと思う」

「なんでだ?」

そう聞くと、早苗は少しだけ息をついた。

「あなた、執行猶予中でしょ」

視線を外さずに言う。

「表に出ない方がいい」

言い切る声だった。

部屋の空気が、少しだけ静かになる。

私は何も言わず、早苗を見ていた。

「だから、新しい店は私がやる」

その言葉に、迷いはなかった。

流れは、さらに大きくなろうとしていた。

コメント