103話「変わる流れ」

小川健太に金を回してから、数日が経った。

エンジェルタッチには、約束通り金が運ばれてきていた。

流れは順調だった。

少なくとも、表向きは——

その日の夜、私は藤乃屋に顔を出した。

手には、近くで買ったいつもの大判焼きを持っていた。

玄関の扉を開けると、中から女の子の笑い声が聞こえてくる。

「お疲れ様です」

顔を出すと、何人かの女の子がこちらに気づき、軽く頭を下げた。

「お疲れ様です」

軽く返しながら中に入る。

奥の部屋にいる江崎さんの姿が見えた。

「久しぶりだね」

江崎さんはそう言って、こちらを見る。

「たまには顔出しとこうと思って」

そう言って、大判焼きを差し出す。

「いつも、すまないね」

江崎さんはそれを受け取り、すぐに袋を開けた。

「ちょっと、お茶を持ってきておくれ」

といつもの、おばちゃんに声をかけた。

しばらく他愛のない話をしていると、ふと江崎さんがこちらを見た。

「あんた、来年から風営法が変わるの知ってるかい?」

その声は、少しだけ低かった。

「いえ、知らないです」

「馴染みの刑事がいてね。その人が言ってたんだよ」

江崎さんは、どこか遠くを見るような目をした。

「来年から、出張ヘルスの形が変わるらしいよ」

一度言葉を切る。

「届出制になるって話だ」

私は何も言わず、そのまま聞いていた。

「その刑事がね、あんたも届出して、ちゃんとした形でやった方がいいって言ってたよ」

少しだけ笑う。

「安全に商売できるようになるってさ」

「まあ、私は今更だけどね」

ゆっくりと首を横に振る。

「もう歳も歳だし、やり方変える気もないよ」

「私はこのままでいいよ」

静かな声だった。

だが、その言葉には迷いがなかった。

「でもね」

江崎さんは、ゆっくりとこちらを見る。

「あんたはまだ若いんだから」

少しだけ優しい目になる。

「届出して、安全にやった方がいいかもしれないよ」

それだけ言って、視線を外した。

店を出ると、夜の空気は少し冷えていた。

車に乗り込み、エンジンをかける。

流れは確実に広がっている。

少しの間、ハンドルに手を置いたまま考える。

答えはすぐに出た。

このまま続けるつもりはなかった。

弘に連絡を入れた。

「警察署に行って届出について確認してこい」

弘は、

「分かりました!明日にでも行ってくるっす!」

それだけで話は通じた。

そのあと、奈緒にも話をした。

届出のこと。

これからのやり方を変えるつもりでいること。

奈緒は黙って聞いていた。

しばらくして、静かに口を開く。

「それなら……」

少しだけ視線を落とす。

「私、女の子辞めて、スタッフとして働きたいです」

迷いはなさそうだった。

私は奈緒を見る。

「いいのか?」

奈緒は小さく頷いた。

「はい。その方が、ちゃんと関われる気がするので」

それで十分だった。

流れが、またひとつ変わった気がした。

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