102話「繋がる流れ」

奈緒と会ってから、数日が経った。

あの日のことを思い返さないわけではなかったが、意識して考えることもなかった。

何かが変わったのは分かっていたが、それを確かめるつもりもなかった。

いつも通りの時間を過ごし、いつも通りに仕事をこなしていた。

それでいいと思っていた。

昼過ぎ、携帯が鳴った。

画面には藤本の名前が表示されている。

「もしもし」

「直人さん、お疲れ様です。この前の件なんですけど……一人、紹介したい人間がいるんですよ」

藤本の声は、どこか軽かった。

「藤本さんの知り合いの件ですね」

「俺の後輩で、都心で出張ヘルスやってる奴なんですけど。店もそこそこ回ってて、ちゃんとやってる奴です」

一度言葉を切る。

「ちょっとお調子者ですけど、仕事はちゃんとしてます」

「分かりました。」

それだけ伝えて、電話を切った。

そのあと奈緒に連絡を入れた。

「小川健太って知ってるか?」

奈緒は少し考えてから答えた。

「はい、名前は聞いたことあります」

後日、奈緒と会った。

奈緒はコーヒーを口にしながら、ゆっくりと話し始めた。

「都心で出張ヘルスやってて、お店は結構回ってるみたいです」

「藤本さんの後輩で、エンジェルタッチにもよく出入りしてるって」

一度言葉を切る。

「出張じゃなくて、箱がいいって子を紹介したりもしてるみたいです」

そこまで言ってから、少しだけ間を置いた。

「ただ……」

奈緒は視線を上げる。

「藤本さんと同じで、お金は闇金みたいなところから借入しているみたいです」

奈緒の話を聞きながら、頭の中で整理する。

店は回っている。

藤本との繋がりもある。

闇金から借入している。

条件は揃っていた。

「藤本が保証人に立つなら問題ない」

そう言うと、奈緒は小さく頷いた。

「多分、大丈夫だと思います」

それだけで十分だった。

後日、小川健太と会った。

想像していた通りの男だった。

背は低く、落ち着きがない。

話し始めると止まらず、愛想だけはやけにいい。

「いやー、ほんと助かりますよ!今、月二で借りていて正直キツくて」

調子のいい口調で、健太は笑う。

「百でいいんすよ。とりあえずそこに返済してしまえば全然楽になるんで」

話は早かった。

私は一度だけ藤本の方を見る。

藤本は小さく頷いた。

それで十分だった。

「分かりました。藤本さんが保証人になってくれるなら」

そう言うと、健太は大きく頷いた。

「マジですか!ありがとうございます!」

その場で条件を伝え、確認を済ませる。

用意していた百万円を渡すと、健太は何度も頭を下げた。

「これでだいぶ楽になりますよ」

軽い口調だったが、その目は笑っていなかった。

金を渡したあと、藤本が口を開いた。

「直人さん、一ついいですか」

「どうしました?」

「健太の店、ここからだと少し距離あるんで……集金なんですけど」

一度言葉を切る。

「エンジェルタッチに持って来させる形にしませんか?」

健太はすぐに頷いた。

「その方が助かります。正直、往復はちょっとキツいんで」

私は二人の様子を見たあと、小さく頷いた。

「分かりました。こっちも助かります」

それで話はまとまった。

車に戻り、エンジンをかける。

金はまた形を変えて動き出した。

エンジェルタッチを起点に、流れがひとつ繋がった。

この街での仕事は、確実に広がり始めていた。

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