奈緒と会ってから、数日が経った。
あの日のことを思い返さないわけではなかったが、意識して考えることもなかった。
何かが変わったのは分かっていたが、それを確かめるつもりもなかった。
いつも通りの時間を過ごし、いつも通りに仕事をこなしていた。
それでいいと思っていた。
昼過ぎ、携帯が鳴った。
画面には藤本の名前が表示されている。
「もしもし」
「直人さん、お疲れ様です。この前の件なんですけど……一人、紹介したい人間がいるんですよ」
藤本の声は、どこか軽かった。
「藤本さんの知り合いの件ですね」
「俺の後輩で、都心で出張ヘルスやってる奴なんですけど。店もそこそこ回ってて、ちゃんとやってる奴です」
一度言葉を切る。
「ちょっとお調子者ですけど、仕事はちゃんとしてます」
「分かりました。」
それだけ伝えて、電話を切った。
そのあと奈緒に連絡を入れた。
「小川健太って知ってるか?」
奈緒は少し考えてから答えた。
「はい、名前は聞いたことあります」
後日、奈緒と会った。
奈緒はコーヒーを口にしながら、ゆっくりと話し始めた。
「都心で出張ヘルスやってて、お店は結構回ってるみたいです」
「藤本さんの後輩で、エンジェルタッチにもよく出入りしてるって」
一度言葉を切る。
「出張じゃなくて、箱がいいって子を紹介したりもしてるみたいです」
そこまで言ってから、少しだけ間を置いた。
「ただ……」
奈緒は視線を上げる。
「藤本さんと同じで、お金は闇金みたいなところから借入しているみたいです」
奈緒の話を聞きながら、頭の中で整理する。
店は回っている。
藤本との繋がりもある。
闇金から借入している。
条件は揃っていた。
「藤本が保証人に立つなら問題ない」
そう言うと、奈緒は小さく頷いた。
「多分、大丈夫だと思います」
それだけで十分だった。
後日、小川健太と会った。
想像していた通りの男だった。
背は低く、落ち着きがない。
話し始めると止まらず、愛想だけはやけにいい。
「いやー、ほんと助かりますよ!今、月二で借りていて正直キツくて」
調子のいい口調で、健太は笑う。
「百でいいんすよ。とりあえずそこに返済してしまえば全然楽になるんで」
話は早かった。
私は一度だけ藤本の方を見る。
藤本は小さく頷いた。
それで十分だった。
「分かりました。藤本さんが保証人になってくれるなら」
そう言うと、健太は大きく頷いた。
「マジですか!ありがとうございます!」
その場で条件を伝え、確認を済ませる。
用意していた百万円を渡すと、健太は何度も頭を下げた。
「これでだいぶ楽になりますよ」
軽い口調だったが、その目は笑っていなかった。
金を渡したあと、藤本が口を開いた。
「直人さん、一ついいですか」
「どうしました?」
「健太の店、ここからだと少し距離あるんで……集金なんですけど」
一度言葉を切る。
「エンジェルタッチに持って来させる形にしませんか?」
健太はすぐに頷いた。
「その方が助かります。正直、往復はちょっとキツいんで」
私は二人の様子を見たあと、小さく頷いた。
「分かりました。こっちも助かります」
それで話はまとまった。
車に戻り、エンジンをかける。
金はまた形を変えて動き出した。
エンジェルタッチを起点に、流れがひとつ繋がった。
この街での仕事は、確実に広がり始めていた。

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