91話「中村食堂の夜」

店が終わったあと、弘と二人で中村食堂に入った。

深夜から朝方まで開いている、飲み帰りの客や夜の仕事をしている人間がよく寄る店だ。

扉を開けると、カウンターの奥にいたおばちゃんが顔を上げた。

「今日は早いね」

「そうだね」

そう答えて、店の奥のテーブル席に腰を下ろした。

弘は席につく前に、

「おばちゃん、俺、とんかつ定食にチキン南蛮つけて」

と声をかけると、

「ご飯は大盛りだろ」

とおばちゃんが返す。

「兄貴はなんにしますか?」

弘はカウンターに並んでいる惣菜をいくつか皿に取りながら聞いてきた。

「俺はオムライスにしようかな」

「またっすか!兄貴ほんとオムライス好きっすよね」

「おばちゃん、いつものオムライス追加ね」

「はいよ!いつものオムライスね!」

いつもの威勢のいい返事が返ってくる。

「兄貴、電話で言ってた話ってなんすか?」

弘がポテサラを頬張りながら聞いてきた。

「新しく仕事を始めたんだよ」

「マジっすか?どんな仕事なんすか?」

弘は箸を止めて、私を見た。

「金融だ」

「金融っすか」

弘は少し驚いた表情を見せた。

「それでな、お前に手伝ってもらおうと思ってな」

「兄貴がやるなら、俺、もちろん手伝うっすよ!」

弘は箸を置き、少し身を乗り出して言った。

私は弘に、江崎さんのことからの流れを話し、日掛金融の仕組みや集金のことなどを説明した。

弘は黙って、真剣な目で話を聞いていた。

話がひと段落ついた頃、

「はい、お待たせ」

ちょうどそのタイミングで、おばちゃんが料理を運んできた。

私のオムライスの皿の横には、揚げたてのちくわとインゲンの天ぷらが添えられている。

「はい、いつものやつもね」

「ありがとう」

おばちゃんはコップに水を注ぎ足すと、そのままカウンターの中へ戻っていった。

「明日、江崎さんの店に貸付に行くぞ」

私はスプーンでケチャップをのばしながら言った。

「了解っす!」

弘はとんかつにかぶりついた。

「あっ、そういえば会社の名前ってあるんすか?」

「名前言うの忘れてたな。LINK CORPORATIONだ」

そう言って名刺を見せた。

「おー!英語なんすね、なんかカッコいいっすね!」

そう言いながら、茶碗を持ってご飯を一気にかき込んだ。

「お前、ほんとよく食うよな」

呆れたように笑うと、

「腹が減っては戦はできぬですよ!明日からバリバリ頑張るっすよ!」

弘は空になった茶碗を頭の上に掲げ、カウンターに向かって

「おばちゃーん、ご飯おかわりね!」

と声を張った。

私はそんな弘を見ながら、オムライスを頬ばった。

まだ何も始まっていないが、不思議と悪くない気がした。

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