店が終わったあと、弘と二人で中村食堂に入った。
深夜から朝方まで開いている、飲み帰りの客や夜の仕事をしている人間がよく寄る店だ。
扉を開けると、カウンターの奥にいたおばちゃんが顔を上げた。
「今日は早いね」
「そうだね」
そう答えて、店の奥のテーブル席に腰を下ろした。
弘は席につく前に、
「おばちゃん、俺、とんかつ定食にチキン南蛮つけて」
と声をかけると、
「ご飯は大盛りだろ」
とおばちゃんが返す。
「兄貴はなんにしますか?」
弘はカウンターに並んでいる惣菜をいくつか皿に取りながら聞いてきた。
「俺はオムライスにしようかな」
「またっすか!兄貴ほんとオムライス好きっすよね」
「おばちゃん、いつものオムライス追加ね」
「はいよ!いつものオムライスね!」
いつもの威勢のいい返事が返ってくる。
「兄貴、電話で言ってた話ってなんすか?」
弘がポテサラを頬張りながら聞いてきた。
「新しく仕事を始めたんだよ」
「マジっすか?どんな仕事なんすか?」
弘は箸を止めて、私を見た。
「金融だ」
「金融っすか」
弘は少し驚いた表情を見せた。
「それでな、お前に手伝ってもらおうと思ってな」
「兄貴がやるなら、俺、もちろん手伝うっすよ!」
弘は箸を置き、少し身を乗り出して言った。
私は弘に、江崎さんのことからの流れを話し、日掛金融の仕組みや集金のことなどを説明した。
弘は黙って、真剣な目で話を聞いていた。
話がひと段落ついた頃、
「はい、お待たせ」
ちょうどそのタイミングで、おばちゃんが料理を運んできた。
私のオムライスの皿の横には、揚げたてのちくわとインゲンの天ぷらが添えられている。
「はい、いつものやつもね」
「ありがとう」
おばちゃんはコップに水を注ぎ足すと、そのままカウンターの中へ戻っていった。
「明日、江崎さんの店に貸付に行くぞ」
私はスプーンでケチャップをのばしながら言った。
「了解っす!」
弘はとんかつにかぶりついた。
「あっ、そういえば会社の名前ってあるんすか?」
「名前言うの忘れてたな。LINK CORPORATIONだ」
そう言って名刺を見せた。
「おー!英語なんすね、なんかカッコいいっすね!」
そう言いながら、茶碗を持ってご飯を一気にかき込んだ。
「お前、ほんとよく食うよな」
呆れたように笑うと、
「腹が減っては戦はできぬですよ!明日からバリバリ頑張るっすよ!」
弘は空になった茶碗を頭の上に掲げ、カウンターに向かって
「おばちゃーん、ご飯おかわりね!」
と声を張った。
私はそんな弘を見ながら、オムライスを頬ばった。
まだ何も始まっていないが、不思議と悪くない気がした。

コメント