「はい。これ」
恵美がテーブルの上に紙袋を置いた。
手に取ると、ずっしりとした重さが伝わってくる。
紙袋を開けると、帯封の百万円が六つ。
そして、十万で束ねられた五十万。
六百五十万が入っていた。
恵美はコーヒーを一口飲み、私を見た。
「江崎さんのところは日掛だから、毎日集金に行かないといけないでしょ。
実際に集金に回る実務は、あなたがするつもり?」
「うん。俺が行こうと思ってるよ」
「それはやめた方がいいわ。他に誰かいないの?」
「他って、誰でもいいわけじゃないしな……あっ、弘は?」
頭に弘の顔が浮かんだ。
「いいんじゃない、弘君。
あなたの右腕みたいな存在だし、月下美人の仕事の合間に集金。
それに、同じような商売をしている場所に出入りして顔を広めるメリットもあるわ」
「でも、どうして俺じゃダメなんだ?
江崎さんは借り換えもしてくれたし、頻繁に会ったほうがいいんじゃないか?」
恵美はコーヒーカップをテーブルに置き、私に向き直った。
その目は、さっきまでとは違い真剣だった。
「あのね、よく聞いて。
江崎さんの店に出入りしている金融屋たちは、真っ白じゃないの。
限りなく黒に近いグレーな人たちよ。
その人たちの飯の種を、あなたがひょっこり現れて全部持って行ったことになるの。
当然、あなたのことを良く思わない。
邪魔だと思うかもしれないし、排除しようとするかもしれない」
私はそこで恵美の話を遮った。
「それなら、なおさら弘じゃなくて俺が行ったほうがいいだろ」
恵美は一呼吸置いてから、静かに言った。
「違うの。
あなたはLINK CORPORATIONの代表なのよ。
その代表が、頻繁に顔を出す必要はないの。
もしトラブルが起きたとき、弘君だったら
“上の者に聞かないと自分では判断できない”って言えるでしょ。
そうすれば対処を考える時間ができる。
要するに、時間稼ぎみたいなものよ」
恵美は続けた。
「それに、そういう時こそ
LINK CORPORATIONっていう表の顔が影響してくるの。
裏社会の人間は、相手も裏社会の人間だと、
裏の力を使って潰そうとしたりする。
でも、相手が表の社会の人間だと、
裏社会の常識が通じにくいから嫌がるの。
だから、あなたは必要なときだけ顔を出せばいいのよ」
恵美の話を聞きながら、
私はふと思い出していた。
あのとき恵美が言っていた言葉。
「建前でも表の顔。あなたには表の顔が必要」
その言葉の、本当の意味を
今、少し理解できた気がした。

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