江崎さんのところを出たあと、車に乗り込み、もらった大判焼きをかじりながら恵美に連絡を入れた。
「江崎さんとの話、終わったよ。今からそっちに行くから」
話の内容は言わず、行くとだけ伝えた。
「分かった、待ってるわ」
恵美は私の声で、ある程度の結果が分かっているようだった。
車を走らせ、恵美のマンションへ向かった。
リビングに入ると、恵美はテーブルの上の書類を整理していた。
「借り換えの金額はどのくらいになったの?」
書類をテーブルに置き、振り返って私を見る。
「江崎さんの店にいる女の子十二名分で、六百五十万になった。保証人は江崎さん本人。あの店でお金を借りている女の子、全員分の借り換えだと思う」
「そう。初回からお店一軒分の借り換えはすごいわね。保証人が江崎さんなら、まず焦げ付く心配はないわ」
恵美は私が横に座れるよう、ソファーを少しずらしてスペースを空けた。
私はその横に腰を下ろした。
「必要な書類は全部揃ってる。これからが本番よ」
恵美は私に向き直り、じっと目を見た。
「うん。江崎さんは他の店も全部任せるって言ってくれてたから、忙しくなりそうだな」
書類を手にしながら言うと、恵美は目を丸くした。
「もうそこまで話が進んだの? すごいじゃない。あなたのこと、相当気に入っている証拠よ」
そう言って、私の手を握り微笑んだ。
「コーヒー淹れてくるわね」
恵美は立ち上がり、キッチンへ向かった。
私はテーブルの上の書類を改めて眺めた。
借用書。
日掛用の手帳。
判子。角印。
LINK CORPORATION 貸金業登録証。
テーブルに並ぶそれらを見ながら、ふと心の中でつぶやく。
「LINK CORPORATION 村上 直人」
これから活動する、表の世界での肩書き。
表社会と裏社会の顔が、LINKしたように思えた。
しばらくして、恵美がコーヒーをテーブルに置き、隣に座った。
カップに手を伸ばそうとしたとき、横に見覚えのあるものが置いてあることに気づいた。
昔、恵美と付き合っていた頃にプレゼントした、プラダのキーホルダー。
手に取ると、鍵がぶら下がっていた。
それは、関係が微妙になった頃、私がマンションのポストにそっと入れた鍵だった。
「あなたの落とし物でしょ。持ち主に返そうと思って」
あの頃によく見た笑顔で、恵美は言った。
「……ありがとう」
私は鍵を握りしめ、そっとポケットにしまった。

コメント