ジリリリリリー。
目覚まし時計の音が部屋にこだまする。
窓から差し込む朝の光に、カーテンがかすかに揺れていた。
私はベッドから起き上がり、ベルを止めた。
「もう起きるの?」
早苗がまどろんだまま目を閉じ、うつらうつらしながらこちらを向く。
「ごめん、起こした?今日、弘が店の営業時間前に新しいドライバーを連れてくる予定になってるから、事務所に行かないといけないんだ」
「そうなんだ、それじゃコーヒーだけでも淹れるね」
早苗は肩をぐっと伸ばし、キッチンへ向かう。
私はソファに腰を下ろし、ぼんやりとコーヒーを淹れる早苗を眺めていた。
コーヒーのいい香りが鼻をくすぐると、眠気もすっと消えていく。
「ねぇ、弘君が連れてくる人ってどんな人かな」
早苗は淹れたてのコーヒーを二つ持って、私の横に座った。
「うーん、弘に懐いてるみたいだから、弘と似たり寄ったりじゃないかな」
「それじゃ弘君が二人になったみたいで、賑やかになるね!」
早苗は微笑んだ。
私は支度を整え、事務所へ向かった。
事務所のドアを開け、玄関で靴を脱ぐと、頭ボサボサで下着姿の弘が部屋から出てきた。
「兄貴!お疲れっす、事務所最高っすね!通勤時間もないし久々にぐっすり寝たっす」
朝から元気いっぱいだ。
彼女に追い出されたはずなのに、少しも落ち込んでいない。やっぱり弘は弘だ。
「兄貴はコーヒーっすよね!」
弘は缶コーヒーをテーブルに置き、慌てて着替えに行った。
しばらくするとインターホンが鳴り、弘が受話器を取って話している。
「早く上がってこい、兄貴もう来てるぞ」
事務所のドアが開き、男の声がした。
「弘さん、おはようございます。大介です」
弘が玄関に駆け寄り、男を連れてきた。
「兄貴だ、挨拶しろ」
弘が少し偉そうに言うと
「あっ、大介と言います。よろしくお願いします」
少し緊張しているのか、頬をほんのり赤くしていた。
弘はソファに腰を下ろしながら指示する。
「おい、お前も座れ。あっ冷蔵庫からジュース二本持ってこい」
弘の偉そうな態度に思わず笑みがこぼれる。
「兄貴、大介はバイクや車に乗って走り回ってましたから運転はピカイチっすよ!で、顔もいいし女の子受けもいいっす」
大介は小さく頷き、ボソボソと質問している。
「あっそうだな、兄貴は月下美人のボスだから、お前はボスって呼べ」
大介は私に向き直り、じっと目を見た。
「ボス、よろしくお願いします。弘さんと頑張ります」
かわいい顔立ちだが、瞳には確かな芯の強さがあった。
「おう、よろしくな」
私が手を差し出すと、大介は両手で力強く握り返してきた。
「よしっ!大介、今日から仕事だ!もうすぐ営業時間になるから女の子迎えに行くぞ」
弘は車の鍵を大介に投げ渡す。
「はい!弘さん!」
弘と大介のやり取りを見て、私は小さく微笑んだ。
今日からまた、少しだけ世界が広がった気がした。

コメント