朝、目を覚ますと美緒がベッドの端に座っていた。
「おはよう」
優しい声が聞こえる。
私はまだ少し眠そうなまま返事をした。
「…おはよう」
美緒は微笑みながら私の髪に手を伸ばした。
寝癖を整えるように指を通す。
「また跳ねてるね」
「そうか?」
「うん」
美緒は楽しそうに笑った。
私は苦笑しながら体を起こす。
こうして朝を迎えるのも、もうすっかり当たり前になっている。
顔を洗い、二人でコーヒーを飲む。
特に何をする訳でもない。
ただ他愛もない話をしながらゆっくりと時間が過ぎていく。
そんな穏やかな時間だった。
その時だった。
テーブルの上に置いていた携帯電話が鳴る。
私は画面を見ると、弘からメールだった。
『時間のある時に連絡ください』
短いメールだった。
「弘さんから?」
美緒が聞いた。
「ああ」
私は頷いた。
「何か分かったのかもしれないな」
そう言うと私は弘へ電話をかけた。
数回の呼び出し音の後、弘が出る。
「兄貴、お疲れっす」
「おう、お疲れ」
挨拶を交わしたあと、私は本題を聞いた。
「何かあったのか?」
すると弘の声が少し真面目になる。
「優良店会の事で少し分かった事があるんすよ」
私は思わず表情を引き締めた。
「それじゃ、会って話すか」
「そうっすね」
弘は答える。
「それじゃ、駅前のファミレスでいいっすか?」
「分かった」
私は頷いた。
「時間は?」
「今からはどうっすか?」
「ああ、大丈夫だ。じゃあそこで」
電話を切る。
美緒がこちらを見ていた。
「優良店会のこと?」
「ああ」
私は携帯をポケットへしまう。
「少し話を聞いてくるよ」
それから私は支度を済ませ、待ち合わせのファミレスへ向かった。
店に入ると、弘はすでに席に座っていた。
私は向かいの席へ腰を下ろす。
「待たせたな」
「いえ、今さっき着いたっす」
弘は首を振った。
そして周囲を軽く確認してから口を開く。
「優良店会なんすけどね」
私は黙って続きを待つ。
「思ったより加盟してる店、多いみたいなんすよ」
「へえ」
「それも自分から入った店ばかりじゃないらしいんすよ」
私は眉をひそめた。
「どういう意味だ?」
「半ば強制みたいな形で加盟させられた店もあるって話を聞いたんすよ」
私は黙って弘を見る。
弘も真剣な顔だった。
「まだ噂レベルの話も多いんすけどね」
そう前置きしてから続ける。
「ただ、どうやら主導してるのはラブステーションみたいなんすよ」
その言葉を聞いた瞬間、私は小さく息をついた。
「ああ、ラブステーションか」
弘は頷く。
私は窓の外へ視線を向けた。
ラブステーション。
そして、その名前の先にいる男を思い出す。
黒岩。
あの男なら――ありえるな。
だが、もし本当に黒岩が動いているのなら。
この話は思った以上に面倒な事になるかもしれない。
私は静かにコーヒーを口へ運んだ。


コメント