199話「今日は離れない」

美緒は私の腕を抱いたまま離れなかった。

肩が触れ、腕も触れる。

少し体を動かすと、また近付いてくる。

私は少し笑った。

「近くないか?」

「今日はいいの」

美緒が小さくそう言いながら。

自然に私の腕を抱いた。

ソファへ体を預ける。

慌ただしかった一日も、ようやく全部終わった。

部屋には静かな時間だけが流れていた。

「疲れた?」

美緒が聞く。

「少しな」

「私も」

少し間が空く。

美緒がそっと肩へ頭を乗せた。

「……でも」

「ん?」

「楽しかった」

私は隣を見る。

美緒は少し照れたように笑った。

「空港も」

「うん」

「三人も」

「そうだな」

美緒は私の腕へ頬を寄せる。

しばらくそのままだった。

すると、今度は指を絡めてきた。

「今日は頑張った」

「頑張ってたな」

そう言うと。

美緒が少し嬉しそうに笑う。

少しして美緒が立ち上がった。

「お風呂入ろ?」

そう言いながら私の手を取る。

「そうだな」

立ち上がろうとすると、美緒は手を離さなかった。

キャンドルの灯りが揺れる浴室へ入ると、暖かい湯気と甘い香りに包まれる。

湯船に浸かると、ようやく体から力が抜ける。

美緒が自然に身体を少し預けてくる。

肌が触れ合うたび、少しずつ力が抜けていく。

私は後ろから、そっと腕を回した。

美緒の身体から少し力が抜ける。

そのまま静かに身を委ねてきた。

少しすると。

美緒は私の腕を軽く引き寄せ、首に絡めもっと近付いてくる。

「近いな」

私が笑う。

「今日はいいの」

また同じ事を言った。

私は少し笑う。

「今日は甘えたい日か?」

美緒は少し考え、小さく頷いた。

湯船の中。

美緒は私の腕をずっと離さなかった。

風呂を出る頃には、二人とも少し眠くなっていた。

ベッドへ入り横になると美緒がすぐ近付いてきた。

腕を抱き、体を寄せる。

横を向くと目の前に美緒の顔。

「近い」

私が笑う。

「……うん」

美緒も少し笑った。

美緒が小さく言う。

「今日は」

「ん?」

「いっぱい頑張ったから」

私は頷く。

「うん」

美緒は少しだけ私を見る。

それから。

また少し近付いた。

「今日はいっぱいくっつく」

私は少し笑った。

「そうか」

「うん」

満足そうだった。

少しすると、今度は私の胸へ顔を埋める。

腕も離さない。

「美緒」

「ん?」

「離れないな」

美緒は少し笑った。

「今日は離れない」

小さな声だった。

私はそっと肩を抱く。

美緒は静かに目を閉じた。

長い一日が終わる。

今日はもう。

何も考えなくていい。

そんな気がした。

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